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海外からの模倣品流入への規制強化について

著者:弁護士 岸 知咲(第二東京弁護士会所属)

新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、デジタル化などの経済活動のあり方が大きく変化しました。その変化に対応すべく、2021年5月に商標法及び意匠法が改正され、これを受けて2022年3月に関税法も改正されました。
 
 改正された商標法、意匠法及び関税法は2022年10月1日に施行されているところ、日本国内にいる「個人」の輸入者が模倣品を購入した場合でも、取り締まりの対象となり得るところが特に注目すべき点となります。

1. 改正の背景等

(1) 改正の背景

 従前,知的財産を侵害する物品の輸入が権利侵害を構成するのは、事業性がある場合に限られ、「個人使用目的」による行為は権利侵害とはなりませんでした。

 ただ、近年ではイーコマースの発展や、国際貨物の配送料金低下等により、海外事業者が国内の「個人」に対し、侵害貨物を直接販売・送付する事例が増えており、それに伴い、2021年の税関における知的財産侵害物品の差止状況は28、270件と依然として高水準で推移しています。また、輸入差止点数も819、411点(前年比39.1%増)に増加しています。

 この点、2005年の差止実績と2021年の差止実績を比較すると、差止件数は大きく増加しているにもかかわらず、実際に差止が認められた点数は同程度又はこれを下回る件数となっていることから、侵害貨物が小口化するなど、個人的目的による侵害貨物(以下「模倣品」といいます。)の輸入事例が増加している傾向がみられます。

 このような「個人使用目的」による模倣品の輸入に対応し、安定的な知的財産制度を構築する必要があったことから、商標法、意匠法及び関税法が改正されました。

(2)従来の制度

ア 商標法
 
商標法上、商標権者は、指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」といいます。)について登録商標の使用をする権利を専有しており(商標法第25条)、商法権者以外の者が権原を有することなく、登録商標を「使用」する行為は商標権侵害(商標法37条)となります。なお、「使用」の定義は商標権2条3項に定められております。

 もっとも、「商標」の定義が、標章のうち、業として商品を生産等、役務提供し、その商品・役務について使用するものをいうため、「業として」行っていない場合、商標権の侵害が成立しません。例えば、少量の貨物を郵便等で海外から日本国内の個人に対して直接送付する取引の場合、輸入行為の主体は日本国内の「個人」であるが故に、事業者の行為とはいえず、商標の「使用」にも該当しないため、商標権の侵害は成立しません。

イ 意匠法
 
意匠法上、意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠(以下「登録意匠等」といいます。)の「実施」(意匠法第2条2項)をする権利を専有し(意匠法第23条)、意匠権者以外の者が権原を有することなく、登録意匠等を実施する行為は意匠権侵害となります。

 確かに「実施」には、個人による登録意匠等の使用も該当し、意匠権侵害となるようにも思われますが、意匠権者の権利は「業として」登録意匠等を実施するものであるため、個人による登録意匠等の使用は意匠権の侵害とはなりません。

 これも商標権同様の具体例の場合、輸入行為の主体は日本国内の個人であるが故に、事業者の行為とは言えず、意匠権の侵害とはなりません。

ウ 関税における取り締まり
 
税関において、知的財産権の侵害品として取り締まりを行うためには、関税法に基づく没収等の対象とされる必要があり、意匠権又は商標権を侵害する物品もその対象とされています(関税法第69条の11第1項第9号及び第2項)。
 
 しかし、上述のとおり、従来の制度では、個人使用目的での模倣品輸入行為は商標権又は意匠権を侵害する行為ではないため、意匠権又は商標権を侵害する物品には該当せず、関税法に基づく没収等の対象とはならないため、取り締まることができませんでした。

2. 改正の概要

(1) 改正の内容

ア 商標法
 
商標法2条7項に、「この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。」という規定が新設されました。

イ 意匠法
 
意匠法2条2項第1号の「輸入」の定義に、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれることが括弧書きで追加されました。

ウ 関税法
 
商標法及び意匠法の改正に伴い、関税法も2022年3月に改正され、輸入してはならない貨物として「意匠権又は商標権を侵害する物品」(外国から日本国内にある者に宛てて発送した貨物のうち、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為に係るものに限る。)(関税法69条の11第9号の2)が新たに追加されました。

 この追加により、商標権侵害や意匠権侵害に該当する海外事業者による模倣品の持込行為により持ち込まれた模倣品が関税法に基づく没収等の対象に該当し、取り締まることが可能になります。

 また、税関が知的財産侵害物品に該当すると思われる模倣品を発見した際には、その模倣品が知的財産侵害物品に該当するか否かを認定するための手続(認定手続)を行います(関税法69条の12第1項)。

 このとき、輸入者には認定手続を行う旨の通知が書面にてなされるところ、輸入者は、認定手続にて知的財産侵害物品に該当しないことを主張するため、書類にて証拠を提出する必要があります。その上で、知的財産侵害物品に該当しないと認定されれば、当該物品の輸入が許可されることになります。

エ 小括
 
改正されたすべての法律に、「他人をして持ち込ませる行為」という文言が含まれております。ここでいう「他人をして持ち込ませる行為」は、配送業者等の第三者の行為を利用して外国から日本国内に持ち込む行為をいい、具体的には外国の事業者が通販サイトで受注した商品を購入者に届けるため、郵送等により日本国内に持ち込む場合を含みます。

 したがって、日本国内にいる個人の輸入者が個人使用目的で模倣品を購入した場合でも、海外事業者による模倣品の持込行為は、登録商標の使用行為や登録意匠の実施行為に該当することになり、商標権侵害や意匠権侵害を問うことが可能となります。

 なお、この制度改正によって新たに規制の対象となった物品(海外の事業者から郵送等で送付される模倣品)を輸入しようとした場合でも輸入者に事業性がなければ、罰則の対象とはなりませんが、一方、輸入者に事業性がある場合には、従来どおり、罰則の対象となります。具体的には10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれを併科することになります。

(2) 改正の影響

 当該改正では、「業として」の要件を維持しつつも、商標法及び意匠法上の「輸入」行為に、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為を含むと定義したことで、外国にある者が郵送等により商品等を国内に持ち込む行為を、事業者が権限なく行った場合に規制対象となることが明確化しました。

 商標権又は意匠権等の権利者は自己の知的財産権を侵害する貨物に対して、認定手続を執るべきことを申し立てることが出来るため(関税法69条の13)、国内企業において、外国にある者が郵送等により商品等を国内に持ち込む行為により自らの権利が侵害されていると認識するに至った場合には、そのような手続きの申立てを行うことも検討すべきと考えます。

 今後、この改正により、商標権又は意匠権の侵害が認定され、輸入物品の取り締まりが拡大する可能性があります。

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