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海外からの投資の受け入れに影響も!?~事前審査手続が必要な事業範囲の拡大~

編著者:King&Wood Mallesons法律事務所・外国法共同事業
弁護士 加藤 賢(東京弁護士会所属)
弁護士 須貝周平(第一東京弁護士会所属)
弁護士 杉本茉永(第一東京弁護士会所属)


1.はじめに

 令和5年4月24日、日本企業が海外からの投資を受け入れる際の外国為替及び外国貿易法(以下「法」又は「外為法」といいます。)に基づく告示の改正[1] [2]がなされ、翌月24日から、適用がはじまりました。これにより、日本企業が海外から資金調達を行う際、事前届出が必要な業種が拡大し、手続が複雑化する可能性があります。そこで、以下、この改正の概要をご紹介しようと思います。

2.事前届出制度の概要

 外為法は、投資⾃由を原則としつつも、国の安全等の観点から、外国投資家(法26条第1項)による国内への投資に際して、一定範囲で事前届出(法27条1項他参照)を求め、これを審査しています[3]。その制度の概要は、次のとおりです。

①6カ月以内の事前届出

 外国投資家が、事前届出を行うべき業種(国の安全等の観点から指定された一定の業種。以下「事前届出業種」といいます。)を営む日本国内の企業に対し、一定の投資(対内直接投資等、又は、特定取得。以下、これらを合わせて「対内直投等」といいます。)を行う場合には、これを行おうとする日に先立って6カ月以内に財務大臣及び事業所管大臣に事前届出を行い(法27条1項)、財務大臣及び事業所管大臣からの審査を受けなくてはなりません。

②30日の取引禁止

 事前届出をした者は、財務大臣及び事業所管大臣が当該届出を受理した日から起算して30日を経過する日までは、当該届出に係る対内直投等をすることはできません。なお、財務大臣及び事業所管大臣は、当該期間をその判断により短縮することもでき(法27条2項・法28条2項)、また、逆に、審査のために必要と判断した場合には、受理日から4か月間を経過する日まで審査期間を延長することもできます(法27条3項・28条3項)。

③違反に対するペナルティ

 仮に、外国投資家が事前届出を怠り、審査完了前に対内直投等を実行した場合、刑事罰(法70条1項22号及び23号)のみならず、当該対内直投等に基づき外国投資家が取得した企業の株式や持分の処分等を命じられる措置命令(法29条1項)を受ける可能性があります。

3.改正の概要

 今回の主な改正点は、一言で言えば、いわゆる「コア業種」の範囲拡大です。

 ここで「コア業種」とは、国の安全を損なう等のおそれが大きいものとして株式取得等に関する事前届出免除を原則利用できない業種です。つまり、外国投資家(非居住者、外国会社等)が、コア業種を営む国内企業に対して対内直投等を行う場合は、基本的に事前届出が必要となります。

 具体的には、今回、以下に挙げる業種が、「コア業種」として追加されました。

 なお、今回改正の背景には、経済安全保障推進法において、安定供給確保のために⽀援等の対象とすべき「特定重要物資」が指定されたことがあります。この指定を受けて、サプライチェーンの保全、技術流出・軍事転⽤リスクへの対処等の観点から、今般、外為法の規制が見直されたものです。

<コア業種へ追加された主な業種>
・肥料(塩化カリウム等):輸⼊業
・永久磁⽯:製造業・素材製造業
・⼯作機械・産業⽤ロボット:製造業等
・半導体:製造装置等の製造業
・蓄電池:製造業・素材製造業
・天然ガス:卸売業
・⾦属鉱産物:製錬業
・船舶の部品:エンジン等の製造業
・⾦属3Dプリンター:製造業・⾦属粉末の製造業
・ドローンについても、コア業種である航空機製造業に含まれることを明確化しました。

(また、抗菌性物質製剤製造業、⽯油精製業等が特定取得の対象(外国投資家からの非上場株の取得も要事前届出)に追加されています。これらから、経済安全保障推進法の「特定重要物資」は、全てコア業種としてカバーされることとなりました。)

4.コメント

 今回の改正は、主に海外からの投資を受け入れる際に問題となる対内直投等の告示に関するものとなっており、具体的には、事前届出業種が拡大されています。中でも、目を引くのは、半導体の製造装置の製造業が、事前届出業種に追加された点です。半導体の製造装置については、別途、本年7月に、輸出規制の強化も予定されており、報道でも注目されているところです。

 事前届出が必要な場合には、上述のとおり、原則30日間は対内直投等の実行を待つ必要がある上、実務上は当局への事前相談を行うことが必要となるなど、投資の受け入れのスケジューリングに大きな影響が生じます。

 そこで、海外からの投資を受け入れる日本企業としては、新たに追加された事前届出業種(特にコア業種)に該当する事業を営んでいるかについて外国投資家から問い合わせを受ける可能性があることを認識する必要があります。そして、自社の業種に関する事前の確認等を十分に行った上で、事前届出が必要となる可能性がある場合には、外国投資家に適切な回答を行い、スケジュールに十分な余裕をもって案件を進める等の対応が望まれます。


[注釈]
[1]:今回の改正については、令和5年4月24日、「対内直接投資等に関する命令第3条第3項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種を定める件の一部を改正する告示」等が公布され、30日間の経過措置期間を経て、翌月24日から適用が開始されたものです。

[2]:財務省「(令和5年4月24日)サプライチェーン保全等のためのコア業種の追加に関する外国為替及び外国貿易関連の告示の開始について」(https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/press_release/20230424.html)

[3]:財務省「対内直接投資審査制度について」
(https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/fdi/index.htm)

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