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上場企業の株式分割に注目!~任天堂、オリエンタルランド、NTTなどなど~
編著者:King&Wood Mallesons法律事務所・外国法共同事業
弁護士 加藤 賢(東京弁護士会所属)
弁護士 須貝周平(第一東京弁護士会所属)
弁護士 杉本茉永(第一東京弁護士会所属)
1. 導入
最近、上場企業の株式分割が目立ちます。
有名どころでは、任天堂は、2022年10月1日、普通株式1株につき10株の割合で株式分割を実施しました。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、2023年4月1日付で、普通株式1株につき5株の割合で株式分割を実施しました。直近では、NTTが、7月1日付で、普通株式1株につき25株の割合で株式分割を実施しました。
そこで、今回は、株式分割の目的や、投資家に与える影響などについて説明したいと思います。
2. 株式分割とは?
株式分割は、1株を複数の株式に分割することをいいます。これにより、1株あたりの株価を引き下げることができます。価格が下がれば、個人でも株式を買いやすくなるので、個人株主の株式購入を促す効果があります。
3. 望ましい投資単位とは?
東京証券取引所(以下「東証」といいます。)では、個人投資家が投資しやすい環境を整備するため、5万円以上50万円未満、という水準を望ましい投資単位として明示しています[1]。2022年10月時点で、東証に上場する企業のうち、9割超がこの水準を満たしています。
他方、この水準を満たしていない上場企業も存在します。東証のルールにより、この基準を満たさない企業は、事業年度経過後3ヶ月以内に、5万円以上50万円未満の水準に引き下げる方針を開示するよう義務付けられています。
例えば、冒頭で触れた任天堂は、報道によれば、2022年の株式分割により投資単位(100株単位)が、約600万円から約60万円に下がったとされています。しかし、それでも、「5万円以上50万円未満」の水準を超えています。そのため、2023年6月26日付でこの「方針」[2]を示しています。
4. コメント
一般的に、株価と株式数は相関関係にあります。株価が高くなりすぎた場合には、株式分割などの手続を通じて、株式数を増やして株価を下げることが求められます。株価が下がりすぎた場合には、株式併合などの手続を通じて、株式数を減らして株価を上げることが求められます。これにより、適切な株価水準を維持することが可能となります。
東証は、昨年10月、上場企業各社に向けて、株式分割による投資単位の引下げ検討を要請[3] するなど、前者に力を入れているようです。
なぜ、今、株式分割が求められるのか。東証によれば、岸田内閣の「資産所得倍増プラン」を受けて、個人投資者が投資しやすい環境を整備するため、とのことです。「資産所得倍増プラン」では、現預金を投資につなげ、金融資産所得も増やしていくことが重要とされています。特に、日本の家計金融資産 2,000 兆円は、半分以上が現預金として眠っており、投資に回されている率は低い(244兆円)とされています。東証は、岸田内閣の方針のもと、個人にもっと投資してもらい、それにより、「成長と資産所得の好循環」を実現しようとしています。
ただ、個人投資家が増えれば、株主総会は、これまでとは違った様相を示すかもしれません。前記任天堂の例では、前記株式分割後に株を購入したとみられる個人株主から、株主総会において、ゲームソフト「スプラトゥーン」シリーズへの熱い要望が述べられるなど、話題となりました。
株式分割によってより多様な株主が株式を保有することになり、会社の運営に影響を与えることになるのかもしれません。
以上
[注釈]
[1] 東証ウェブサイト
[2] 2023年6月26日付「投資単位の引下げに関する考え方および方針等について」(任天堂株式会社)
[3] 2022年10月27日付「投資単位の引下げに係るご検討のお願い」
【編著者】
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【左】弁護士 加藤 賢(東京弁護士会所属)
【中央】弁護士 須貝周平(第一東京弁護士会所属)
【右】弁護士 杉本茉永(第一東京弁護士会所属)
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