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要注意!ステルスマーケティングの規制始まる!

編著者:King&Wood Mallesons法律事務所 
弁護士 山﨑俊吾(東京弁護士会所属)


1.はじめに

皆さんは、ステルスマーケティング(以下「ステマ」といいます。)をご存知でしょうか。

 令和5年3月28日、河野太郎内閣府特命担当大臣は、記者会見で、ステマを景品表示法(以下「景表法」といいます)における「不当表示」に指定し、10月1日から施行すると発表しました。

これにより、10月1日以降、ステマによる広告を行い、景表法上の「不当表示」に該当した場合には、措置命令などの行政処分の対象になります。

 そこで、今回、規制の経緯やどのような場合にステマが「不当表示」に該当するのかなどについて、ご紹介したいと思います。


2.そもそもステマって何?

ステマとは、広告主が自らの広告であることを隠したまま、広告を出稿することをいいます。広告の出稿には、インフルエンサー(世間への影響力・拡散力がある人)などへ宣伝の依頼をして広告を出稿することも含まれます。

例えば、最近では、Twitter、InstagramやYouTube等のSNSでも、インフルエンサーが商品レビューをすることが多くなりました。そのレビューが、インフルエンサー独自の見解や感想であればよいのですが、中には企業がインフルエンサーに報酬を支払って「お勧めです!って宣伝してください。」と依頼し、インフルエンサーが企業の意向に沿って商品レビューをすることもあります。これがステマです。


3.なぜ今回ステマが規制されたのか?

我々がインターネットなどで、商品やサービスの情報に触れる際、事業者の広告であると分かっていれば、「ある程度の誇張があるかもしれない」と考え、警戒することができます。

しかし、ステマの場合、見かけ上は事業者の広告だと分からないので、油断してしまいます。皆さんも、ネット上の口コミや商品レビューは、あまり疑わず、そのまま信じてしまうこともあるのではないでしょうか。ステマの怖さは、まさに、この点にあります。

ステマは、商品やサービスの取引に関し、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するリスクがあるのです。

特に、最近では、インターネット広告も増え、スマートフォンの普及やSNSの利用増加により、消費者はインターネット広告に触れる機会が非常に多くなりました。その結果、消費者が知らず知らずのうちにステマに遭遇する機会も増加しています。

消費者庁が公表している令和4年12月28日付け「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書[1]」によれば、41%(123人)の現役インフルエンサーが広告主からステマの依頼を受けたことがあり、さらにその中の約45%(55人)のインフルエンサーがステマの依頼を実際に受けたと回答しました。

諸外国をみますと、EUや米国においては、既にステマに対する法規制が存在します。一方で、日本は、これまでステマを直接規制する法令を設けておらず、欧米に後れをとり、ステマは野放しになっていました。

そこで、今回、消費者保護のために、ステマの規制が導入されることになりました。


4.景表法に基づく指定告示

今回のステマ規制は、いわゆる、指定告示[2]の形で導入されました。

 すなわち、景表法は、第5条において、消費者を誤認させるような不当な表示を規制しています。

規制は大きく分けて、以下の3類型が定められており、3つ目のものが指定告示と呼ばれるものです。

  • 品質等に関する優良誤認表示(同条第1号)

  • 価格等に関する有利誤認表示(同条第2号)

  • 内閣総理大臣が指定したもの(同条第3号)

 具体的には、ステマ規制は、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(内閣府告示第十九号)[3]として指定されています。

 その結果、ステマ規制に違反した場合、景表法第5条第3号の「不当表示」に該当することとなり、措置命令等の対象にもなります。

 

5.「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」とは?

では、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」とは、具体的に、どういったケースを指すのでしょうか。

この点、消費者庁が公表した運用基準[4]によれば、次の①及び②を満たす表示とされています。

① 事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示(事業者の表示)であること
② 事業者の表示であることを明瞭にしないなどにより、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となる表示であること

これだけでは、抽象的で分かりにくいため、以下、具体例を交えて説明します。

① 事業者の表示であること

①に該当するのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思決定による表示内容と認められない場合です。

例えば、インフルエンサーが事業者から報酬を受け取り、その対価として事業者の取り扱う商品について、事業者からの指示通りに紹介したり、感想を述べた場合です。

このような場合には、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容(感想等)と認められず、①に該当します。

また、そこまで露骨な場合でなくとも、①に該当する可能性があります[5]。例えば、上記の例で、金銭の報酬は受け取っていないものの、商品が無償で提供された場合なども、やはり、①に該当すると考えられます。

② 一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となる表示であること

②に該当するかどうかは、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているかどうか(言い換えれば、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないかどうか)を表示内容全体から判断します。

例えば、広告という記載や発言が一切なく、終始、当該インフルエンサーの感想であるかのように一般消費者に向けて表示している場合には、事業者の表示であることが明瞭とはいえず、②に該当します。

その他にも、次のような場合には、②に該当する可能性があります。

・動画において事業者の表示である旨の表示を行う際に、一般消費者が認識できないほど短い時間しか表示しない場合(長時間の動画においては、例えば、冒頭以外(動画の中間、末尾)にのみ表示をするなど)

・広告・PRなどと表示はしているが、明らかに小さい文字で表示するなどして、一般消費者が認識しにくいような場合

・SNSの投稿において、広告・PRなどの表示を大量のハッシュタグのなかに紛れ込ませたりする場合


6.コメント

令和5年10月1日よりステマ規制が施行されるため、事業者の皆様は、今のうちに広告方法について見直し、規制に違反しないよう留意してマーケティングを行う必要があります。

インフルエンサーは、現代において強い影響力を有しているため、起用を考えておられる事業者の皆様も多いかと思います。しかし、もし、事業者側の指示内容をそのまま発言させたり、忖度により商品等を宣伝させたりする場合には、テレビCMのように、それが広告であることが一見して明らかなような表示をするなど、工夫が必要です。

なお、今回の規制は、事業者のみが対象であり、インフルエンサー等の第三者は規制の対象外です。もっとも、今後は、インフルエンサー等の第三者に対しても、何らかの規制がされるかもしれません。ステマ規制の動向には、今後も注視する必要があると思われます。


[注釈]
[1]消費者庁 「ステルスマーケティングに関する検討会 報告書」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_005/assets/representation_cms216_221228_03.pdf)

[2] 指定告示(景表法第5条第3号)の方法は、複雑な経済社会において、優良誤認表示(同条第1号)や有利誤認表示(同条第2号)では対応できない新たな不当表示を規制できる点でメリットがあります。今回のステマ規制以外には、これまで、指定告示は6種類定められています(果汁の清涼飲料水等についての表示など)。

[3] 内閣府告示第十九号(https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms216_230328_02.pdf)

[4] 消費者庁 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms216_230328_03.pdf)

[5] 運用基準によれば、以下のような場合も、①に該当するとされています。

  • 事業者がインフルエンサーに対してSNSを通じた表示を行うことを依頼しつつ、自らの商品又は役務について表示してもらうことを目的に、商品又は役務を無償で提供し、その提供を受けたインフルエンサーが事業者の方針や内容に沿った感想等を述べた場合

  • 事業者がインフルエンサーとの取引には明示的に言及しないものの、当該インフルエンサー以外との取引の内容に言及することによって、遠回し的に当該インフルエンサーに自らとの今後の取引の実現可能性を想起させるなど、事業者の商品やサービスについて紹介・感想を伝えることが、インフルエンサーに経済上の利益をもたらすことを言外から感じさせたりした結果、インフルエンサーが事業者の商品等について感想等を述べた場合


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