
ヒトラーのはじめたゲーム
読了:2025_01_12
満足度:★★★☆☆
所感:ナチスの強制収容所を描いた児童文学。ヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧」の子ども向け版という感じ。子ども向けなので、当時の過酷な環境はそこまで具体的には描かれていないものの、それでも収容所の辛さは伝わってくる。
特に印象に残ったのは下記の部分。主人公のジャックは、収容所で先輩のアーロンから下記を教えてもらうが、この2つが印象に残った点だった。
「いいか、ジャック、ここで起こることはすべてゲームだと思え。どんな目にあっても、くよくよしてはいけない。うまくゲームをするんだ。そうすれば、ナチスより長く生きることができるかもしれない。」
①くよくよしてはいけない
今、自分が置かれた環境の捉え方。過去やネガティブなことは気にせず、今と未来のことを考えることで、自分の気持ちを前向きに保つこと。
本文には下記の記述がある。前者では、ネガティブな考えで自身のエネルギーを使うことの愚かさが、後者では、ポジティブなことに目を向けて、心と身体を前向きにさせることの重要性が分かる。ただ、未来を考えることについては難しい面もあり、ヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧」では、(確か)生きることに何かを期待することにはリスクもあり、根拠のない期待を持つと、それによって失望が生じることにも繋がる、とも。
ジャックはカポや監視兵を憎まないことにした。憎しみはなにも生み出さず、何の役にも立たない。自分の中のエネルギーを消耗させるだけなのだ。…(中略)…そんな中で、生きるためのエネルギーを保つためには。できるだけポジティブでいなければならない。ところが、憎しみはネガティブな感情でしかないのだ。
なぜ神さまは、こんな残虐な行為を止めなかったのだろうか?…(中略)…「そんなことは考えない方がいいよ、ジャック。なぜか、なんて考えたら、ここでは生きていけない。いまこの瞬間と、未来のことだけ考えるんだ」
②ゲームをする
ジャックは、この過酷な環境をゲームと捉え、そのゲームのルールを探し、危機を避ける(生きる)術を学んでいく。例えば、「餓死しないためには、余分な食べ物を手に入れろ」「注目されるようなことはするな」「健康に気をつけろ」など。読んでみて改めて、日常でも通用する大事なことだな、と感じる。会社や地域のそれぞれには、明らかなルールと、明文化されていない暗黙のルールが存在する。明文化されていない暗黙のルールは「空気」とも近いような気もするが、それを掴みながら収容所の環境に対応をしていくジャックの姿は、社会人の私が読んでも見習う点があるな、と感じる。
と言うわけで、今回読んだ本はこちらでした。
---
ヒトラーのはじめたゲーム
著:アンドレア・ウォーレン(訳:林田康一)
あすなろ書房
---