追悼:フランキー・ビヴァリー
1番好きなソウル・シンガーは?と聞かれれば、フランキー・ビヴァリーと答える。そのフランキー・ビヴァリーが亡くなってしまった。あまりにショックが大きすぎて、亡くなって数日経つけれど、なかなか気持ちが切り替えられない。
私がフランキー(メイズ)と出会ったのは大学に入ってから。だからバリバリ後追い。まぁ、77年デビューですからね。最後のオリジナル・アルバムになってしまった『Back To Basics』でさえ、93年、私が高校生の時ですから。
大学では某カルト・サークル(ソウルミュージック研究会です)に所属していたんですが、そこで先輩から「教育テープ」(この名前からしてカルト)という、ダンス・クラシックスがたくさん収録されたテープをもらって。サークル主催のイベントで最後にダンクラがかかるのが定番だったので、覚えなさいっていう意味で先輩が新入生に配るのが毎年恒例だったのです。それに「Before I Let Go」や「Joy And Pain」が入っていて、そこで知ったのが最初だと思う。
なんとなく他のダンクラとは違って、アップ・チューンなんだけど切なさがあって、声がシルキーで優しくて、なんか他とは違うなー、私このグループ好きだなーと18歳の私は思ったのでした。そこからメイズのLPを少しずつ買い揃えていき、「Before I Let Go」や「Joy And Pain」以外にも素敵な曲がたくさんあるんだなと知り。あっという間に今で言う「沼落ち」ってやつに陥ったのでした。
ちょっと余談ですが、この前DJ/ダンサーのYacheemiさんに「川口さんはどういうR&Bが一番好きなんですか」と聞かれて「なんでも好きだけど、強いて言えば切な系(刹那系)ダンサーというか、アゲアゲのアップじゃなくて、ちょっと哀愁が漂ってるアップ・チューン。例えばトニ・トニ・トニの“Tell Me Mama”とか、アンバー・マークの“Worth It”とか」って話をしたんですが、今思うと「Before I Let Go」や「Joy And Pain」に反応したのもそういう理由だからだろうなぁと思ったりしました。そして今でもその好みは変わってないと。
閑話休題。当時はメインストリームR&B/ヒップホップの新譜を聴きつつ、ソウルのレコードも掘り、bmrやblastを読んで勉強し、ヒップホップのクラブにも行くけど、ソウルの名曲をもっと知りたくてソウル・バーにも一人で果敢に行くという、CanCamともJJとも無縁の花の女子大生ライフを送っていたわけですが、ソウル・バーでよくリクエストしていたのが「Golden Time of Day」と「Can’t Get Over You」。数あるメイズの名曲の中でもこの2曲は特別かも。「We Are One」や「Happy Feelin’s」も特別かな。って、結局全部出てきちゃいますよね。「We Are One」なんて今こそ聴くべき曲だと思う。ロシアのウクライナ侵攻が始まった時にたまらずこの曲を聴いたりしましたよ。
あと、ヒップホップ・ソウル世代の私には、メイズの曲がたくさんネタ使いされているのもメイズに入りやすかったというか、馴染みやすかったというか。メイズ・ネタの曲なんて山ほどありますが、パッと思いつくのは2パック「Can U Get Away」(「Happy Feelin’s」使い)と、アルーア「Head Over Heels (Remix)」(「Before I Let Go」使い)。カヴァーだとドナ・アレン「Joy And Pain」かな。
2 Pac / Can U Get Away
Allure / Head Over Heels(Remix) feat. Tone & Az
ちなみにオリジナルはMCシャン「The Bridge」使いでNasをフィーチャー。
Donna Allen / Joy & Pain
そんなこんなで(端折りすぎw)学生時代にライター・デビューをしたけれど、フランキーに会いたいとかインタビューしたいとかいう思いは一切なく。後追いで聴いてたからっていう負い目も少なからずあったし、私よりベテランのライターさんの方が明らかに適任ですしね。その代わりファンとしてライヴは観たくて観たくて仕方なかった。『Live In New Orleans』や『Live In Los Angeles』とか聴いちゃうと特にね。かといってメイズが毎年トリを務めていたニュー・オーリンズの「Essence Music Festival」に行く勇気も金もなく、ただただ来日公演を祈っていたのですが、その夢が叶ったのが2009年9月、コットン・クラブでの来日公演。嬉しかったなー。心の底から嬉しかった。この前のジャム&ルイスのライヴもそうだけど、お客さんが筋金入りの人達ばかりだから最初から最後まで大盛り上がりで大合唱。最高だったなぁ。今から15年前の話だけど、今でもすごく幸せな時間だったのを覚えてる。結果的にあのライヴが最後の来日公演となってしまったわけで、行って本当に良かった(そもそも行かないという選択肢はなかったけど)。私がフランキーと同じ空間にいた唯一の時間でした。
この来日公演を記念してbmrの2009年11月号&12月号でメイズ特集が組まれたんだけど、昨日パラパラと11月号を見ていたら、メイズのディスクガイドの執筆者に私の名前があり(完全に忘れていたw)。しかもJAMさん、林剛さんという二大巨頭と並んでという! メイズの原稿をこのお二人と書くなんて、R&Bライターとしてはこれ以上ない誉れですよ! 私があまりに好き好き言ってたから、当時の編集部さんが原稿を振ってくれたのかな。
ちなみにサンプリング&カヴァー特集もあって、さっき挙げた2パック、アルーア、ドナ・アレンの曲を私が書いていた(笑)。超偶然。好きなものが一切変わってないことに笑ってしまったよ。
その後もファンとして常に聴き続けてきたわけだけど、近年のメイズをめぐるゴタゴタはちょっと引いて見ていたというか、どうしても私にとってメイズ=フランキーなので、フランキーのいないメイズはなぁという思いで見ていたのが正直なところ。
けど林剛さんの素晴らしい追悼文を読んでいて、あれもこれもすべてフランキーなりの気遣いというか、先が長くないことを知っていての彼なりの終活だったんだなぁとわかって、涙が止まらなくなってしまった。自分はなんて視野と心が狭いんだろうと情けなくなった。最後まで私はフランキーに教えられてばかりだ。
亡くなっても音楽は残るし、これからも聴き続けることは変わらない。そもそも30年以上もアルバムを出していなかったけど、その間もずっと聴いてきたし、これからも私の1番好きなソウル・シンガーはフランキーであることも変わらない(ちなみに1番好きな“R&B”シンガーはメアリーJね)。
けどやっぱり寂しいですね…。すごく寂しい。彼の音楽を聴くことでしか追悼できないけれど、極東の片隅にこんなにショックを受けているファンが私以外にもたくさんいることを天国から見届けてくれたらなぁと思います。たくさんの感動と喜びを本当にありがとうございました。
Rest In Heavenly Peace, Frankie Beverly…
※<今日の1曲>はお休みします。