テンプレヒアリングシートで課題は解決できない
駆け出しデザイナーやフリーランスの方の間でヒアリングシートの内容が話題に上がっているのを時々見る。「何を聞いていいのか?」が、不安なんだろう。ヒアリングという工程は非常に大切だが、ここを蔑ろにすると制作屋さんはどこまで頑張っても御用聞きの制作屋さんで終わってしまう。
制作屋さんとは「制作」というリソースを原料にしており、工数を時間で算出して見積もりを出す以外に方法がない。作業単価が全てだ。一方で依頼主はどう考えているだろうか?多額の借り入れを行い、従業員を雇い、サイトやLPを作り、広告をだし、借りたお金を返済しつつ利益を生み出さなければいけない。依頼主にとってサイトは「投資」である。
ここに依頼主とのギャップが生まれる。「顧客に寄り添う」や「売れるサイト」と称して、実際はありきたりなヒアリングシートに依頼主に記載させ、望まれた通りにデザイン作業をこなしている人が非常に多い。この行為をやめない限り、都合よく、手を動かし、便利に思ってもらえるか、という売り方を繰り返すだけである。そして、クライアントとデザイナーが完成品に対してお互い満足し、それで終わりである。全く効果のないサイトにお金を使い、依頼主の借金が増えただけである。
ヒアリングシートは事実を一度に理解するには非常に優れているが、課題を浮き彫りにするには、テンプレヒアリングシートでは絶対無理である。
1 BtoBの本質は「合理的な課題解決」が全て
企業とデザイナーが契約することはBtoBである。これを自覚しなければいけない。チラシを作る、ホームページを作る、ECサイトを作る、LPを作る、バナーを作る、というデザイナーが作る全てはこの利益創出のための必要なツールである。ここを理解できていないから、担当者の好みに合わせて作る「御用聞き」デザイナーが生まれてしまうのである。
こんな表現でデザインを説明してしまっていないだろうか?
・わかりやすく伝える
・興味を持ってもらえる
・親しみやすく
ビジネスを舐めてはいけない。分かりやすく伝えてお金が貰えるのなら誰でも大金持ちである。
分かりやすく伝える
視認性を高める事で、閲覧時間が向上しサービス理解度が高まる。よって検討者の再訪問率が現状より〇〇%向上することが予測される。
興味を持ってもらう
ターゲットインサイトに〇〇があると考えられる為、その表現を使用したバナーを使用することで、クリック率が現在より〇〇%向上し、サイト送客数が〇〇増え、現状のCVRから算出すると1日あたり〇〇人の購入者が増加する見込み。
親しみやすく
ユーザーヒアリングにより、購入者の〇〇%は「〇〇」に対して好感度が高いため、DMに〇〇の要素を追加することで接点強化を図り、継続利用率、再利用率を向上させる。
これが、ビジネスに求められているものである。それができないから寄り添うしかしないのではないだろうか。
2 数値から逆算した設計がなければ、趣味アート作品
ビジネスには目標数値というものがある。それは「あったらいいな」という目標ではなく、「なし得なければ死んでしまう」数値を超え、さらに余剰という利益を作らなければいけない。それが法人である。
依頼された会社のビジネスモデルやキャッシュポイント、つまり利益を作るカラクリは知った上で制作しているだろうか?
例えば企業ホームページリニューアルを依頼されたとする。どんな事業であれホームページの役割はWEB上での営業窓口である。リニューアルの目的は受注数を増やすためのツールであるため、目標から逆算しなければいけない。
サービス単価:10万円 固定費:月々200万円 目標:受注件数20件
この様に見てみると、どの中間指標をあげる事が受注数をあげる要因になるのか非常に分かりやすくなる。例えば、問合せから商談までは87%以上あり、この領域をいくら頑張っても目標の20件には到達しないのである。
次にターゲットについてだが、現状の顧客リストから受注しやすい層は見えてくるのだが、闇雲にリニューアルしてしまうと、別市場や別ターゲットを対象にしてしまうことにもなり得てしまう。受注件数を10件→20件にあげる事が目的であれば、現状獲得している層に近似値の層を狙う方が確実性が高いので、現状と目的数値との乖離具合によっても考える必要がある。
3 課題を抱えてる人に答えを聞いている事がそもそもおかしい
ここが最も僕が重要だと思っているところ!
当然だと思うが、道に迷っている人に道を聞く人はいない。見当違いのヒアリングシートはこれを実際に行なってしまっているのである。
・最もアピールしたい点は?
・サイトの目的は?
・競合との違いは?
・盛り込みたい内容は?
・ターゲットの年齢や性別、職種、エリアは?
多くの場合、販売主がアピールしたい点や設定したターゲットや市場が間違っているから、課題を抱えているのだ。その課題の解決方法を間違った人に聞いているのである。デザイナーは解決できそうな顔で近づき、案件化するための提案をして、お金を頂き、クライアントの注文に対して文句を言っているのである。
それではデザイナーの市場価値は上がらない。
まとめ
サイトを作るならサイトのプロであるべきで、「作り方を知っている」ことではない。
にも関わらず、造形美のみで対価を頂こうとするのが今のデザイナーには多く見られてしまうのが非常に残念だ。「ポートフォリオの作り方」というものまで需要がある始末。それすらデザインするのがデザイナーではないのか?
「自分は何を成し遂げたいのか?」を追求していくと、自分の本質が浮き彫りになっていくと思う。
何が好きで何が嫌いか?
何が楽しくて何が可能なのか?
誰に喜んで欲しいのか?
自分はその人に何ができるのか?
もっともっと掘り下げた剥き出しの本質は、時に市場では受け入れられないケースが多くある。くすぶっている多くのデザイナーは、この市場で必死にもがいていると思う。しかし、考えが浅かったり、できることが少なかったり、求められていない場所で営業したり、好きな事を突き詰めればいつか誰かが評価してくれると待っていたり、傷つかない場所で保身したり、その中だけの環境で満足している部分もあったり、誰かと繋がれば勝手に仕事がもらえるかもという理由で勉強会に参加したり。
自分の本質部分と市場の2箇所を見ずに自分の世界だけで頑張っているから、報われず、こじれてしまう。ビジネスとは「有限なお金と時間」をいかに使って、利益を生み、関わる人に幸せを循環させる事だと考えています。あなたのやりたい事は、この循環を促すことができますか?すごいデザインを作ることができれば誰が評価されるんじゃないのか?という思考とは真逆の考えです。自分の武器磨きも大切だが同時に、武器を使う場所も大切だという事をぜひ知って欲しいと思っている。