患者説明・インフォームドコンセントのQ&A

患者説明・インフォームドコンセント(IC)についてよく相談されることをまとめました。主に医師の先生や医療安全管理者向けです。

Q:説明は誰にすればいいのか?

 治療の対象となる患者さんに説明する必要があることは当然です。ひと昔前は,悪性腫瘍の場合に患者さん本人に告知をするか,という問題がありましたが,今では行える治療方法が増えたこともあり「本人に告知せず家族にのみ告知する」といった対応はほとんど行われていないようです。
 最高裁平成14年9月24日判決では平成2年の診療について「患者が末期的疾患にり患し余命が限られている旨の診断をした医師が患者本人にはその旨を告知すべきではないと判断した場合には・・・少なくとも、患者の家族等のうち連絡が容易な者に対しては接触し、同人又は同人を介して更に接触できた家族等に対する告知の適否を検討し、告知が適当であると判断できたときには、その診断結果等を説明すべき義務を負うものといわなければならない。」と述べられていますが,現在では医療現場での状況が大きく変わっていると言えるかも知れません。

 患者さんが未成年者の場合,親権者である両親に説明する必要があります。ただし,患者さんが相応の年齢(中学生以上くらいでしょうか)の場合,患者さん自身にも説明し,意向も考慮した方がよいと考えます。

 悩ましいのが,高齢で認知症が進んでいる患者さんなどの場合です。患者さんが説明を理解できる状態ではない場合には,基本的には患者さんに近い関係にあり患者さんの意思を最も汲み取れる方(病院で定めるキーパーソンと一致することが多いですがそうとは限りません。)に説明し,患者さんの推定的意思に基づいて治療方針を決めるということになります。
 あくまで,推定される「患者さんの意思」で決めるのであり,近しい方自身の意思ではないことに注意が必要です。近しい方と患者さんの利害が対立している場合(例えば医療費を気にして必要な治療に同意しないなど),同意を得ることなく医学的にみて最善の医療を行っていくべきこともあり得ます。

Q:いつ説明をすればよいのか?

 治療内容によっても大いに異なるところだと思いますが,予定手術であれば外来中に一度ひととおり説明していただき,一応の意思確認をしていただいた上で,入院時に再度説明していただくのが望ましいのではないかと思います。

 どうしても入院してしまうと,医療者が患者さんのためにいろいろと準備をすることになります。その様子を見ている患者さんとして,今さら手術を受けないとは言いにくいものです(空気を読む患者さんほど言いにくいでしょう。)。そのため,患者さんにとって断わりやすい外来の段階できちんと説明しておくことが紛争予防につながります。

 説明義務を履行したかという評価としても,患者さんに十分に熟慮する時間と機会があったかが考慮されることがあります。

Q:何を説明すればよいのか?

 最高裁平成13年11月27日判決は「医師は、患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明すべき義務があると解される。」と判示しています。これは手術の事案でしたが,一般的に患者さんの状態と考え得る医療上の選択肢,各選択肢のメリット(期待される治療効果,回避される有害事象,予後の見込みなど)とデメリット(起こりうる合併症やリスク)について説明を要することになります。

 もちろん,医師として,専門家としての推奨(recommendation)はすべきです。ただし,その場合でも,あえて,推奨する治療方法のデメリットや推奨しない治療方法のメリットについて意識して説明しておけるとよいでしょう。これらは推奨と真逆の要素であり,自然な説明としては出てきにくいことですから,患者説明が上手な医師にも注意していただきたいと思います。

Q:説明を記録に残すには?

 もはや耳タコだと思いますが,説明同意書をきっちり作成して説明し,その経過を診療記録として記録化していただくことに尽きると思います。

 説明義務が問われる訴訟では,言った言わないの争いになることも少なくありません。医師から見ると信じられないかもしれませんが,1時間かけて説明したのに「一切説明がなかった」と言われたり,言うはずがないのに「先生が絶対安全だと言っていた」と言われたりすることは稀ではありません。このような争いではカルテなどの診療記録が重要な証拠となります。

 説明同意書は定型文であることが多いと思われますが,当該患者さん特有の事情(病変の性状や,解剖学的位置関係から難易度が高いとか,病歴から標準的薬剤が使用できないとか・・・)がある場合には追記しておくとよいと思います。書式を改変できない場合には,追加した説明部分はカルテに書いておきましょう。

 簡単な解剖図などをその場で描いて説明される医師もいらっしゃると思います。そのような資料は分かりやすく説明したことの根拠となりますので,ぜひ説明同意書とともに診療記録に保存するようにしてください。

 説明書に十分に記載がある場合,カルテへの記載はなくてもよいか?と質問されることがありますが,できればカルテにも,説明した時間や,その場で出た患者さんの反応や質問,それに対する答えなど,その場でのやり取りを具体的に記載しておいていただきたいと思います。それにより説明したときの状況がより鮮明にイメージできるようになります。同様に同席した看護師さんにおいても,説明の場でのやり取りについて看護記録に記載していただきたいと思います(医師のカルテと同じような内容でも,2人がそれぞれ記載していることに意味があります。)。

 説明同意書(及び付属するメモ,イラストなど) +医師のカルテ記事 +看護師の看護記録がきちんと記録されていれば,説明義務の争いにはなりにくいと思われます。


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