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タイ シャドー釣行記④

 釣り4日目。今日は最終日。朝から大雨が降っていた。薄手のジャンパーで釣りに行こうとしていると、見かねた村人がかっぱを貸してくれた。シャドーを釣るには、僕はまだ早かったかななんてマイナスなこと思いながら、村の人たちには絶対に釣ってくるぜ!みたいな真逆なことを言って最後のボートに乗り込む。

 雨が強く降っていたためいつも以上に寒く、乗船時間も長く感じた。と思ったら実際にいつもとは違うポイントに向かっていた。30分ほど走りマップを見るとかなり遠くの場所に来ていた。ここでは障害物にいるシャドーを狙う作戦に出た。雨の日は稚魚ボールがあまり現れないからだ。

 雨で増水した雨季に障害物につくシャドーを狙うのは難しいだろうなと思いながら、立木の陰にペラルアーを投げ続ける。4日間も連続で釣りをしていると、キャスティングの技術も上達してきた。しかしここは出そうだなと思うような立木の合間にするりとルアーを入れるも、反応はない。雨で体も冷えてくるので、温めるために休む間もなく投げ続ける。
 1時間くらい続けると、その時は突然やってきた。立木の少ないポイントにルアーを投げると、着水した瞬間に水面が爆発した。「Fish! Fish! Fish!!」と連呼しながら必死に巻き、ガイドは網を構える。大物用のタックルを使っていたので割とあっさりとボートべりに寄せて網でボートに上げられる。
サイズは50cmほどだが正真正銘のシャドーだ!よっしゃー!!


とりあえずガイドに写真を撮ってもらう。もう釣れないと思っていた。でも、釣れた。しかもペラルアーで。いろんな思いが籠った雄たけびが雨の湖に木霊した。正直50cmというサイズはあまり大きいサイズとは言えない。それでも今の僕には十分すぎる魚であり、間違いなく怪魚だった。

 早めに釣れたので時間は余っていたが、なんだか自分は放心状態だった。そんな中竿を振り続ける。脳内には旅のエンディングテーマが流れている。立木の間に投げては引くを繰り返すこと30分、今度はボート手前5mで再びシャドーが食いついた。こちらもすぐにボートに上げることができた。最終日に2匹目である。サイズはやや劣るが色がきれいな個体だった。この魚を見て、この魚に出会えて、今日がこの瞬間が今までの釣り人生の中で最も幸せな時の一つであることは間違いないと確信した。
 


 雨が小降りになると、ガイドのおじさんが僕のためにご飯を作ってきてくれたので食べることにした。出会った当初は全く会話ができない状態で先行きが不安でもあったが、ご飯を共にする仲になるとは。そしてこの料理がめちゃくちゃ美味い!お世辞なしで。

 その後、ガイドがプラーチョンという小型の雷魚の1種を釣り上げる。昔図鑑で見た古代魚のポリプテルスという魚に似ていた。その魚を最後に雨の中お昼過ぎまで釣りを続けたが、なにも釣れなかった。

 桟橋に戻るといつもの村人たちが待っていた。昨日までは毎日「釣れなかったよ…」と言って帰ってきていたが、今日は村人の姿が見えるや否や右手でガッツポーズを作った。すると皆が拍手を送ってくれて、僕はいろんな思いが混じり合い涙が出そうになった。そして屋根のある所に行きシャドーを持って記念撮影をする。皆が僕の写真を撮ったり、連絡先を交換したりするのでちょっとしたヒーローになった気分だった。そして一緒に釣りをしてくれたガイド、よくバイクに乗せてくれるお母さん、水上家屋のオーナー、ホテルの部屋が隣だったオランダ人と、お世話になった人々にシャドーの見せることができた。


 そしてとある村人が教えてくれたのだが、僕の泊まっている水上家屋の近くにレストランがあり、そこに行けばシャドーの料理を作ってくれるらしいのである。早速行き料理を申し込むと、トムヤムスープにしてくれるという。トムヤムクンならぬトムヤムシャドーだ。
 
 僕は料理ができるまでコインランドリーに行ったり、売店を回ったりしてこの町で過ごす最後の午後を楽しんだ。そして再びレストランに戻ると料理ができており、僕が泊っている水上家屋のベランダに運んでくれた。湖を見ながら食べるトムヤムシャドーは言うまでもなく美味かった。だって僕がここで釣った魚だから!間違いなく忘れられない最高の1日になったと確信して美味しく完食した。

 翌日、11時半のバスでバンコクに戻る予定だった。それまでの少しの時間、水上家屋や桟橋からルアーを投げシャドーを狙ったが釣れなかった。もう切り上げてバス停に行こうとした時、桟橋に着いたボートから見覚えのある人が降りてきた。オワンだ!昨日釣って帰った時には桟橋にいなかったためシャドーを見せることはできなかったが、最後に会って昨日の写真をたくさん見せた。オワンもたくさん喜んでくれて、また来てくれと言って連絡先を交換した。
 


 今まで国内はいろんな場所を旅してきたが、こんなにもまた来たいと思った場所は初めてだった。それが海外マジックなのかもしれないが、1週間近く滞在したサンクラブリーには、僕にとって海外感はあまりなくなってホームのような場所だと感じるようになっていた。
 正直シャドーのサイズも、怪魚と呼ぶにはまだ小さい。さらなる大物を狙いに来ることが、戻ってくる理由だ。釣りの技術とタイ語を向上させてまた来るよ。ありがとうサンクラブリー!カオレム湖!


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