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【第五ノ怪】風見鶏のハナシ

僕の通っていた小学校には、七不思議のひとつにこんなウワサがあった。

――風見鶏が回るところを見られたら、願いが叶う。

でも、風見鶏が回るところを見た人なんて聞いたことがない。

それなのに、同じクラスのK君はこの前見たって言うんだ。
もちろんクラスのみんなはK君に矢継ぎ早に質問した。

いつ見たのか…
1人で見たのか…
どうやって見られたのか…
何か特別なことをしたのか…
どんな願い事をしたのか…

K君はひとつひとつの質問に丁寧に答えた。
でも、願い事の内容だけは最後まで言わなかった。
言ったら叶わないかもしれないからって。

その日の帰り道、僕は1人で下校していた。
すると後ろから声をかけられた。
K君だった。
何やら辺りをキョロキョロしている。
どうしたのか聞くと、彼はなぜか僕にだけどんな願い事をしたのか教えてくれると言う。

K君とは仲がいいわけでも、家が隣とかそういうわけでもない。
教室でも席が離れているし、数えるくらいしか話したことがない。

「何で僕にだけ教えてくれるの?」

そう訊ねると、僕は口が硬そうだからだと答えた。
たしかにそうかもしれない。
元々僕はクラスでも孤立していて、いつも教室の隅で読書しているような人間だ。
最初こそいじめっ子に物を隠されたり、ケガを負わされたりもしたけど、あまりにも無反応だから飽きられたのか、いじめっ子を筆頭に誰も僕を相手にしなくなった。

だから僕に話したとて、僕には拡める相手がいないわけだ。

そして僕はK君から彼の願い事を聞いた。

『お前が、いなくなりますようにって願ったんだよ』

やっぱりそうか。
そんな事だろうと思った。
K君はゲラゲラ笑いながら走り去っていった。

彼から僕がいなくなるよう願ったという話を聞いても、僕はなんとも思わなかった。
特に興味がなかったんだ。
だって、彼の願いは叶わないんだから。

そして僕は家路に着いた。


翌日。
K君は学校に来なかった。
その日だけじゃない。
何日も、何週間も、何ヶ月も…

そう、彼は僕と会ったのを最後に家に帰っていなかった。
それどころか、大人になった今でも彼は見つかっていない。


風見鶏――。
そもそもないはずの風見鶏。
それなのに小学校に存在していた風見鶏のウワサ。
最初は信じていなかった。
だってそうだろう?
無いはずのものが急にパッと現れてクルクルと回る…
そんな事あるはずがない。

でも僕は見たんだ。K君よりも先に。
立ち入り禁止の屋上に凛々しく存在する風見鶏を…
そして風見鶏が勢いよく回る様を…。
あぁ、ようやく僕にもツキが来たんだ。
そして僕は願った。

「風見鶏さん、僕をいじめている人を消してください」

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