次亜塩ウォーズ(Pさん)

 嫁と一緒に、次亜塩の消毒液を手指に使うの、ありえないよねという話をした。どちらも医療介護系なのでその辺の話が合うのである。次亜塩というのは、次亜塩素酸ナトリウム溶液の略で、原液では強いアルカリ性をしていて、薄めてもかなり腐食などの効果が残る。大まかに言って、水酸化ナトリウムと似たような効果がある。どういう作用か詳しくは知らないが、これを希釈して何らかの微生物に掛ければ、全て死滅する。アルコールでも消毒できるけれども次亜塩はアルコールでも死滅しない微生物を殺菌することができる。というわけで、コロナウィルスにも有効だということで注目されることが幾たびかあるわけだが、問題は毒性や腐食作用、漂白作用があることだ。プラスチックあたりには問題ないけれども木や布はすぐにダメになる。ある種の金属に使えばサビる。そして、人間の皮膚に使えば、ボロボロになる。荒れているという状態になるのだが、濃度が違えばやけどと同じ状態になる。噴霧してそれを肺で吸えば、これもどこかで問題になっていたが、よからぬ健康被害がある。何より、手に付いたらいくら洗い流しても嫌な臭いが残る。
 そして、そんな本来使い所を大変選ぶが強力ではある消毒液を、一時期、手指消毒用として、たとえばスーパーの店先などに置いてあるのを、たびたび見掛けた。それをてっきりアルコールとばかり思って掛けて、アルコールと同じようには冷えないのを感じ取って、
「やられた!」
 と思ったことがしばしばあった。それ以降、そういう置いてある消毒液は、まずごく少量つけて、匂いを嗅ぐのが習慣になった。
 それが出回ったのは一つにはアルコール消毒液が一時期品薄になったから代用品として使われていたという経緯があり、現在はその品薄は解消されているので、次亜塩の手指消毒というのはまた見掛けなくなった。
 ところが。前置きが異様に長くなった。先日、とあるマッサージ店に行って、検温と同時に手指消毒をお願いされ、店員に、直接手に吹きかけられた。
 店員が奥に行って視線が逸れたのを確認して、習慣にはなっていたが、念の為というニュアンスがかなり強くなった、匂いを嗅ぐというのをしてみた。すると、
「やられた! 久しぶりに! しかも奇襲の形で!」
 と、次亜塩系であることが判明した。
 すぐにトイレを借りて手を洗った。
 ところで、次亜塩を使う所は、ハイターなどの原液を自分で薄めて出しているところと、元からそれとしてメーカーが販売しているものとがあるが、そこはメーカーのものだった。
 次亜塩だとしたら、「手指に使用する」とはどこにも書けないはずだ。その場で、そのメーカーを調べて商品ページを見てみた。案の定、一切、手指に使用できるとは書いていなかった。さらに驚くことに、ページの下の方に社長の言葉みたいのがなぜか載っていて、
「私は長年の研究の末に、この次亜水を発見しました」というニュアンスのことが書いてあった。冗談じゃない、発見もくそもない、もともとあったものだ。第一呼び方を微妙に変えているが次亜水なんて呼び方は存在しない。このマッサージ店は騙されている。次に行ってまだそれを使っていたら文句を言ってやろうと思う。

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