日記(Pさん)

 よく晴れて気持ちのいい気候だったが、そろそろ格好に気を使わなければ、芯まで冷えるくらいに寒くなった。この、芯まで冷えるという、今まで慣用句じみた使い方しかしてこなかった言葉が、文字通り、体に堪えるようになった。
 寒さを跳ね返す体力がない。
 今日、「情熱大陸」の、家庭でも簡単にできるスパイスカレーという動画に影響されて、いくつかスパイスを買いに行った。コリアンダーシードと、コリアンダーシードのパウダー、それからスパイスじゃないけどココナッツミルク。
 このうち、高級なスーパーに行ったにも拘らず、コリアンダーシードだけは見つからなかった。
 仕方なく、アマゾンで残りを買うことにした。結局、アマゾンでほとんどの購入物は足りてしまう。それでいいのか、という気がする。もし全員が、何でもアマゾンで買いそろえることが習慣になってしまったら、近所にある大手スーパーですら、潰れてしまう。
 世の中へのボランティアとして生きているわけでもないけれども……。
 今日、Pさんは倫理感の感じられないものを嫌がる、と指摘されたことがあった。確かにそうだ。小説の中で例えば殺人が起こると、「そんなひどいことするな」と思ってしまう。普通だったらしない。今だったら、小説として成り立たせるための、常套句みたいなものとして機能するのがわかるから、読み飛ばすことも出来るけれども、どこかそういう、マトモに捉えるというか、感情移入しすぎる所があるのかもしれない。
 最初の記憶は、スタンリー・キューブリックのいくつかの作品でそういう感情を覚えた。アイズ・ワイド・シャットのエロシーンや、フルメタル・ジャケットの教官や、時計仕掛けのオレンジの暴力シーンなど、今見ると、むしろ生真面目な所などあることがわかるけれども、どうしても飲み込めない苦々しさみたいなのを覚えた。
 しかし、辛いことのない世界というのを、どこかで空想している。何の苦しみもなく、データ脳みたいのになって、永遠に漂っているというような……。そりゃ安逸というものだ。

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