二つの価格
WEBやデザインに限らず、制作部門は1つの「工場」と似た構造を持っていると感じていて、自分が業務の管理や効率化に悩んでいたころ、答えを求めて様々な本を読み漁った。
その中で今も折に触れ読み返し、日々の実践の参考としている本がある。名著と呼ばれる「The Goal」(ザ・ゴール)だ。
TOCと呼ばれる手法で工場を3ヶ月で立て直す物語だ。
企業の目的とは「お金を儲けること」であり、その目的に対して非効率になっている「ボトルネック」を見つけ、それを管理していく。
内容が小説仕立てにしてありとても面白い。
その続編として書かれたのが「ザ・ゴール2」だ。
生産管理手法のロジカルシンキングを題材にした内容で、あらゆる課題に対するアプローチ、解決に至る思考方法が書かれている。
何年もディレクターをしていると、プロデューサーとの職域が曖昧になり製品や工数に対する価格設定(見積もり作成)を行うことがよくある。
新しい技術がどんどん入っているIT業界では、決まった値段表はあまり存在せず、どうしても作業時間(工数)に対する値付けになりやすい。
しかし、ユーザーが求める「良い製品」とは、無尽蔵の予算を使った高機能なもではなく、「限られた予算で生み出される解決」なので
価格の感覚はとても大切なものになってくる。
「ザ・ゴール2」は価格設定で悩んでいた時に出会い、業務に一筋の光を与えてくれた本である。
中でも「2つの価格」という一節が今も印象深く残り、価格設定の際には必ず思い出している。
クライアントは自身の利益で商品の価格を決める。生産者は商品を作る作業にかかった時間で価格を決める。この二つは1つのコスト概念では対立構造になってしまう。
これがマネージャーが正しい判断(最適化)ができない問題の根源なのだ。
ではこのコンフリクト(対立構造)を打開して、新たなソリューション(仕組み)を生み出すにはどうすれば良いのか。
1つのコスト概念にはとらわれず、様々なパターンの適正価格を設定し、適用していくことで対立構造が打破される。
航空料金を例にすると、1年前・1か月前・前日と常に価格が変動する。
購入する利用者(この場合のクライアント)がどのような価値を持っているかによって、値段が変化しているのだ。
「1年前に安い料金で確定したい」「直前だから高くても売れ残りで確定したい」などの心理が考えられる。
顧客の価値(心理)を巧みにセグメント(分類)できれば、そこから派生するあらゆる問題が解決するのではないだろうか。
WEBやITなどの進化の早い業界では、情報はすぐに共有化され競争は激化し価格は下落する。
いつまでも一つの価格にこだわっていると、状況の変化に取り残されてしまう。
ただし、クライアントの価値観に焦点を当て、自分たちの強みを最適化していけば、打開策が見えてくる気がする。
クライアントの価値観は常に揺れ動く、価格は1つではなく価値も1つではない。
自分たちの提供できる価値をしっかりと見直し、組み合わせのオプションを豊富に用意して、あらゆるニーズに対応できるようにしていきたい。
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