視察報告「大阪府八尾市の重層的支援体制整備事業について」

報告書

八尾市における地域福祉支援の現状と課題について報告します。

1. 背景と連携の現状
八尾市(人口約26万人)は、緩やかな人口減少を迎えつつも、河内音頭や祭りなど市民活動が活発な地域です。地域包括支援センターの一つが直営で運営されており、八尾市版の重層的支援体制が構築されています。令和2年4月には特別定額給付金(10万円)の給付に際して、未申請者約3000人に対して訪問を行いましたが、その多くは集合住宅に住む40代・50代の市民でした。この訪問活動を通じて、生きづらさを抱えている人々の存在が明らかになりました。

2. 組織体制と取り組み
令和3年4月に「地域共生推進課」が「つながる支援室」に名称変更され、生活困窮者支援を担当する部門が統合されましたが、ワンストップ窓口は設置されていません。その代わり、多機関連携を重視した支援体制が取られています。つながる支援室の職員は4名で、令和5年度には相談件数が1000件を超えるなど、支援ニーズが高まっています。

「断らない相談支援体制」を目指し、各窓口での話し合いや要綱の整備が進められました。各分野にはエリアディレクターを配置し、負担を分散させる取り組みも行われています。また、市長がワンストップ窓口の設置を望んだものの、職員の説得により断念されました。組織改変はボトムアップ型で進行し、部長会議や係長会議での説明を通じて職員全体での理解が深められました。

3. 支援事例
具体的な支援事例として、国民健康保険税の滞納に関する対応があります。支援室では、チェックリストや窓口対応機能向上ツールを活用し、全庁的な連携を強化しています。見た目や匂いで「変だな」と感じた人も支援室につなぐ仕組みを整えました。また、支援を受けた大人のADHDの人が、福祉施設でボランティアとして地域に貢献する事例もありました。

4. 課題
これまでの取り組みを通じて、支援者同士の「顔がつながる」ことで、相談しやすい環境が整備されました。支援者一人が全ての制度や資源を理解する必要はなく、アウトリーチもシェアすることで負担を軽減する工夫が進められています。しかし、住居の問題が最も大きな課題となっています。居住支援法人に協議会に参加してもらい、地域づくりに近づけるような取り組みが必要です。また、民生児童委員の負担軽減も課題です。週一回の訪問を求めるのではなく、挨拶だけでも十分とするなど、柔軟な対応が取られています。

5. 今後の展望
ICTツールを活用した会議録作成や日程調整の効率化が進んでおり、国の会議にもつながる支援室の職員が参加しています。児童分野では、行政の介入がトリアージ的な対応に留まらないよう、予防的な活動が重視されています。地域住民を巻き込み、緩やかに見守る体制を強化する必要があります。

福祉分野での人材育成や、社協との連携は今後も重要なテーマです。優秀で意欲のある職員が存在している一方で、限られた人材と資源で、より効率的かつ効果的な支援体制を構築することが求められています。

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