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夜間遊泳

 昨日、プールで遊んだ。

 一昨日くらいには、公園で星を見ていた。瞬きと揺らぎの区別が付かなくなった。星同士の位置を比べてみろ、と言われ、「ああ、UFOじゃないんだな」と、なんとなく納得した。
 

 水に浮かんで天井を見ていると、自分の運動不足を全て忘れた。やがて夜に泳ぎたいと思うようになり、目を閉じた。
 夜になり鮮紅色や翠緑、薄黄色の照明を屋内プールに沈めた。天井の明かりは消して一人で泳ぐことにした。
 幼い頃に地元で起きた殺人事件を思い出した。

 誰がどうやって誰を殺したかではない。私とはそれまであまり関わりの無かった人が死んだ。自殺だったかもしれないし、心中だったかもしれない。
 起床を繰り返す内にそんな事件が本当にあったかどうかも朧気になっていったのも事実だ。しかしその日は、起きたときから「あれは確かに起こったことだ」とそういう気分のまま過ごしていた。

 死んだら星になるとかならないとか、屈折した淡い色の光に満たされた水面に、浮かぶ体が安心していたせいで考えもしなかった。それでも、どうして自分はプールに照明を沈めたのだろうかという問いが頭の中で漂い続けた。
 しばらくして答えが出た。本当の暗闇の中で泳ぐことと、本物の自由の中で生きていくのは似ているせいなのかもしれないと。
 頼るものが無い領域で生きることは、光の届かない深海で泳ぎ続けるのと似ているからではないだろうか。 
 もし死んで星になるなら、光が程よく届く場所が良い。死んだあとも何かにすがりたいだなんて、笑えてくるよな。


 とにかく私はそんなどうしようもない暗闇に対して、無意識に怯えていたのではないか。
 それに綺麗な明かりをつけて泳いだ方が心地良いはず、というのもあった。

 それがわかったところで、この町は生きやすくてとってもいいところであることには変わりは無い。

 そうこう考えているうちに朝が来て、桃色と水色の朝焼けに満ちた空があることに気付いた。本当に綺麗だった。

 だからその朝焼けからその火を盗んで、同じ色で町を全部焼き払うことした。映画みたいにね。

 燃える町並みを一度放り出して、目を開けた。
 斜陽が差し掛かり、プールには目を閉じる前と変わらぬ景色があった。誰かがはしゃいでいるのと、サイレンが聴こえた。
 

 
 あの心中って、私が唆したんだっけな。

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