蜜月終焉の足音 GKの喜怒哀楽⑥~2018年J1第32節、C大阪対川崎~

蜜月が終焉へ向かう足音が聞こえた。J1第32節、C大阪対川崎。川崎が連覇を決めた試合で目立ったのは、チョン・ソンリョンの守備範囲の狭さと攻撃への貢献度の低さだった。

チョン・ソンリョンは、典型的な「シュートストッパー」だ。欧州のトップレベルでは、高い位置に押し上げるDFの背後をカバーできるポジションを取り、攻撃時にはビルドアップの始点を担うGKが増えてきたが、彼の〝主戦場〟はゴールエリア。カバーリングやビルドアップに意識が向き過ぎると生じやすい、ポジショニングの乱れ、技術や判断のミスなどからの失点を予防する。ペナルティエリアを飛び出す回数は少なく、同エリア内での行動範囲も狭い。

実際、シュートを止める能力は極めて高い。191cm、90kgの巨躯は力強さと柔らかさを兼備。ボールホルダーとの近距離戦では身体を大きく使い、〝壁〟と化してコースを狭め、中距離や遠距離から際どい位置に飛んでくるシュートは、しなやかに跳躍して弾き出す。

また、強烈なシュートを不用意にこぼし、詰められて失点する光景も皆無。ボールの勢いを〝殺す〟技術に優れる。シュートを力で抑え込もうとするGKには難しい芸当だ。

C大阪戦でも前半44分、ソウザの鋭いミドルシュートを素早く正面に回り込み、右手で上へクリアして難を逃れた。安易にダイブせず、軌道に合わせてボールに正対する。この基本に忠実なセービングが、ミスを最少化する。

しかし、川崎のようにボールを持ち続け、攻撃に多くの人数を割くチームの守護神には、シュートストップ以外での貢献も求められる。守備ではDFの後方に広がるスペースを埋め、攻撃ではパスのコースを常に確保するとともに、時には精緻なロングフィードを前線に通し、敵の高い位置からのプレッシャーを無効化しなければならない。

いずれも、チョン・ソンリョンの特長とは齟齬をきたす。C大阪戦ではDFの背後に流れたルーズボールへの反応や出足が鈍く、クロスの処理も消極的。川崎は風間八宏体制以降、セットプレーやクロスからの失点が多いが、原因の1つは〝制空権〟を握れないGKだ。1つ目の失点も、田中亜土夢のクロスを杉本健勇が収めた時点で距離を詰めれば、結果は変わった可能性がある。

一方の攻撃では、キックの飛距離や精度は十分だが、組み立てを円滑化させ、味方を高い位置へ送り込む配球は乏しかった。

連覇を達成した川崎を倒すため、各クラブは対策を練る。この日のC大阪と同様、低い位置にブロックを形成し、引き寄せて奪い、速攻で仕留めようとするクラブが増えていくに違いない。必然的に、川崎のGKはシュートストップ以外の比重が大きくなる。

チョン・ソンリョンが連覇に果たした役割は大きい。ただ、川崎が現在のスタイルを磨き上げ、進化させていくならば、別離は遠くないうちにやって来る。

<採点>
キム・ジンヒョン:6
ビッグセーブ:0
ミスセーブ:0
ビッグセーブこそなかったが、ミドルシュートやクロスへの対応、フィードなど1つひとつのプレーが精確だった。守備範囲も広い。PKを与えた場面は、焦りが垣間見えた。知念の身体はゴールを向いておらず、ボールもラインを割る勢いで、コースを塞ぐだけでよかった。身体を当ててしまえば、主審は笛を吹くしかない。

チョン・ソンリョン:5.5
ビッグセーブ:0
ミスセーブ:0
シュートは堅実に処理。1失点目は待ち構えずチャレンジして欲しかったが、2失点目は仕方ない。問題は守備範囲の狭さ。川崎のスタイルが進化すれば、限界は訪れる。

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