見出し画像

初志貫徹のない、朝令暮改の進路決定

松本光広
工学部・センシング技術を応用したシステムの開発

中学生の時に、毛利衛さんが日本人初の宇宙飛行士として宇宙へ行ったことがきっかけで、将来は宇宙飛行士になりたいと思っていた。そのために、高校生の時には、大学へ進学して、航空宇宙工学を学ぶために航空宇宙工学科へ行きたいと思っていた。高校卒業後は、航空宇宙工学科へ行くために、浪人した。1年ほど、予備校で勉強した。

浪人後、航空宇宙工学とは関係ない、大学へ進学して、機械システム工学科へ行き機械工学を学んだ。大学と大学院修士課程では、管フランジ締結体を研究した。管フランジ締結体とは、パイプである管と管をつなげる時に、管の端に設置したフランジ部を、複数のボルトとナットを用いて締結するものである。この締結部から、管の内部を流れる水などの液体や、ガスなどの気体が漏れないようにするために、複数のボルトとナットを、どの程度の力で締め付ければよいかを研究した。3年ほど、管フランジ締結体を研究した。

管フランジ締結体


その後、航空宇宙工学とも、管フランジ締結体とも関係ない、企業へ就職して、産業用の超高圧水銀ランプを製造した。産業用の超高圧水銀ランプとは、一般的な照明として使われる蛍光灯や電球のような可視光線を発光するランプとは異なる。強力な紫外線を発光して、ICなどの半導体製造工程で、微細な回路パターンを焼きつけるための巨大なランプである。1年ほど、超高圧水銀ランプを製造した。


その後、航空宇宙工学とも、管フランジ締結体とも、超高圧水銀ランプとも関係ない、企業へ転職して、医療機器を開発した。医療機器とは、人の腕における静脈の位置を見つける機器である。人の腕における静脈に注射をする時に、人によっては脂肪により静脈が見えにくい。そのために、何度も間違った位置に注射をされて、痛い経験をした人も多いと思う。この機器は、人の腕における静脈の位置を自動で検出して、自動で静脈の位置に印を付けて、注射すべき位置を示すものである。2年ほど、医療機器を開発した。


その後、航空宇宙工学とも、管フランジ締結体とも、超高圧水銀ランプとも、医療機器とも関係ない、大学院博士課程へ進学して、レーザー距離スキャナを研究した。レーザー距離スキャナとは、移動するロボットにとって、移動を妨げる障害物を見つけるための目である。スキャナから障害物までの距離と方向を、レーザー光を用いて測定する。スキャナから発したレーザー光は、障害物に反射して、スキャナへ戻ってくる。この時間を測定すれば、レーザー光における光の速さから、距離を計算できる。また、レーザー光を様々な方向に向けてスキャニングすれば、スキャナを搭載したロボットに対して、障害物がロボットからどの距離のどの方向にあるかが分かる。つまり、ロボットは障害物を見つけることができる。3年ほど、レーザー距離スキャナを研究した。

レーザー距離スキャナ


その後、航空宇宙工学とも、管フランジ締結体とも、超高圧水銀ランプとも、医療機器とも、レーザー距離スキャナとも関係ない、工業高等専門学校へ就職して、自転車のホイールにおける振れ取り装置を研究した。自転車のホイールは、ハブ、複数のスポークとニップル、リムにより構成される。複数のスポークにおけるニップルを、緩めたり締めたりすることで、ハブを中心としたリムを円形に保つ。これを振れ取りと言う。ハブを中心としたリムを円形に保つことにより、ホイールは安定して回転できて、自転車は走行できる。ホイールの振れ取り装置は、振れ取りを、職人の経験ではなく、振れ取りの仕組みを知らない素人でもできるように支援するものである。5年ほど、振れ取り装置を研究した。

ホイールの振れ取り装置


その後、航空宇宙工学とも、管フランジ締結体とも、超高圧水銀ランプとも、医療機器とも、レーザー距離スキャナとも、ホイールの振れ取り装置とも関係のない、神奈川大学工学部経営工学科へ転職して、超人化スーツを研究している。超人化スーツとは、帽子とベストにより構成される。帽子とベストには、複数の距離センサと振動モータが対となって設置されている。複数の距離センサと振動モータの対は、人の目の届かない、背後や頭上から人の近づく物体を見つけて、人に気づかせてくれるものである。6年ほど、超人化スーツを研究している。

超人化スーツ


このように自分の進路を振り返ってみると、高校生の時に思い描いていた航空宇宙工学とは全く違う、管フランジ締結体、超高圧水銀ランプ、医療機器、レーザー距離スキャナ、ホイールの振れ取り装置、超人化スーツと、異なる進路の連続であった。全く初志貫徹のない、朝令暮改の進路決定の連続だったと言える。しかし、こんな進路決定でも人生を歩んできており、こんな進路決定もありかもしれない。

松本光広
工学部・センシング技術を応用したシステムの開発

『学問への誘い』は神奈川大学に入学された新入生に向けて、大学と学問の魅力を伝えるために各学部の先生方に執筆して頂いています。