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求人・求職データで見る労働市場の動き-仕事の見つけやすさはどう決まる?-
神奈川大学 経済学部
浦沢聡士研究室
古山将大・大野祐樹
鶴岡宗実・浦沢聡士
経済学部浦沢ゼミでは、官民が保有する様々なデータを用い、横浜市で起きていることを可視化し、その成果をコラム形式で発信しています。今回は、労働市場の動きを捉える求人・求職データを使って見えた横浜市の姿を紹介します。横浜市での仕事の見つけやすさはどう変化していると思いますか?
横浜市に関する様々なデータを用い、市で起こっていることの見える化をしてみよう。今回は、求人・求職データを使って、横浜市の労働市場の動きを見る。
求人・求職データとは、ハローワーク(公共職業安定所)における、新卒者を除く求人・求職、就職などの状況を記録したもので、労働市場における企業の雇いたいという求人ニーズ(労働需要)と労働者の働きたいという求職ニーズ(労働供給)を明らかにするデータと言えるが、「横浜市統計書(第13章 労働、職業紹介状況)」よりダウンロードすることができる。この「横浜市統計書」では、求人数や求職者数に加え、就職件数(求職者が就職したことを確認した件数)や充足数(求人が求職者とマッチした件数)といったデータが市内のハローワーク別に報告されているが、そのうち主要なものについては毎月のデータがその月が終わってから約1か月後に公表されている(「横浜市主要経済指標(失業率・有効求人倍率)」)。
雇用は、人々の暮らしと密接に結びついていることから、その改善を図ることは地域の重要な政策課題となっており、そうした雇用環境を捉えるデータとして様々なものが用いられている。その中でも、本コラムでは、企業の求人ニーズと労働者の求職ニーズといった需給の両面に着目して、市の労働市場の変化を見える化する。この2つのデータを用いた、いわゆる有効求人倍率(求人数÷求職者数)については、求職者数に対する求人数の割合を表すことから、その値が1より大きい時には、求人数が求職者数を上回り、つまり企業の雇いたいという労働需要が労働者の働きたいという労働供給に比して強いことを意味し、逆に1より小さい時は、労働需要が弱いことを意味する。このように、有効求人倍率は、労働者から見れば仕事の見つけやすさを表すデータとも言え(例えば、1を上回る時は仕事を見つけやすい)、失業の動向とも密接に関係している。
図1では、横浜市の有効求人倍率(赤・折れ線)とともに、全国の有効求人倍率(灰・折れ線)と失業率(白・棒)の動きを示しているが、景気の良い時には有効求人倍率が上がる(仕事が見つけやすい環境になる)とともに失業率が低下し、景気の悪い時にはその逆の動きとなることが確認できる。
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しかし、仕事の見つけやすさは景気だけの影響を受けるものではない。具体的には、ミスマッチと呼ばれ、企業のニーズと労働者のニーズが合致しない場合には、たとえ労働需要が強かったとしても、労働者は仕事に就くことができず、仕事が見つけやすいとは言えなくなる。企業の求人ニーズと労働者の求職ニーズといった2つのデータを用いることで、こうしたミスマッチの状況も見えてくるが、横浜市の労働市場について何が見えるだろうか?
図2では、縦軸に求人数、横軸に求職者数をとり、1990年以降の横浜市の労働市場の動きを示している。図を斜めに横切る45度線より上にデータがある時には、求人数>求職者数となり、有効求人倍率が1を上回ることから仕事が見つけやすい環境、逆に、45度線より下にデータがある時には、求人数<求職者数となり、仕事が見つけにくい環境と考える。
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横浜市の場合、バブル経済崩壊後の1990年代初以降、景気が悪化する中で、赤の破線に沿って45度線を上から下に跨ぎ(求人数が減少し、求職者数が増加)、仕事が見つけにくい環境となった。その後、2000年代半ばには、全国的な景気回復の中で45度線を下から上に跨ぎ(求人数が増加し、求職者数が減少)、一時的に45度線より上の領域を推移したが、リーマンショックによる景気悪化を背景に再び45度線より下の領域に戻るといったように、景気の変化に応じて45度線を挟んだデータの行き来が確認できる。
ここで重要となる点は、この時期、1990年代から2000年代にかけてデータが行き来する破線が原点より離れ、赤の破線から青の破線へと変わったことであり、これは市の労働市場におけるミスマッチの拡大といった構造的な動きを示唆するものと言える。なぜなら、労働市場において、求人数、求職者数がともに増える方向への変化は、企業が職を多く生み出す一方で、そうしたポジションが労働者によって充たされることなく、職を求める労働者も同時に増える状況を意味し、企業と労働者のマッチングが上手くいっていないことを示唆するからである。横浜市でも、全国的な傾向と同様、2000年を境にこうした構造的な変化が見られていた。
一方、コロナ禍後の近年の動きを見ると、依然として青の破線上をデータが行き来しており、コロナ禍後にミスマッチが拡大しているような動きは見られない。2014年以降、データは45度線より上の領域を推移しており、コロナ禍では一時的に45度線上へと有効求人倍率の低下も見られたが、その後は改善している。横浜市の有効求人倍率(2023年度、1.12)は、全国平均よりも低くなっているが(2023年度について、全国平均は1.29。最も高い都道府県は福井、東京で1.8程度、最も低い県は神奈川県で0.9程度)、近年、人手不足が顕著となる中、横浜市の求人・求職データには今後どういった変化が見られていくのであろうか。