
夜間光データで見る経済社会の動き-夜間に宇宙空間から地球を見ると何がわかる?-
神奈川大学 経済学部
浦沢聡士研究室
経済学部浦沢ゼミでは、官民が保有する様々なデータを用い、横浜市で起きていることを可視化し、その成果をコラム形式で発信しています。今回は、夜間光データを使って見えた横浜市の姿を紹介します。夜間に宇宙空間から地球を見ると何がわかると思いますか?
横浜市に関する様々なデータを用い、市で起こっていることの見える化をしてみよう。今回は、夜間光データを使って、横浜市を中心に神奈川県下における経済社会活動の変化を見る。
夜間光データは、いわゆる衛星データと呼ばれるものの1つであり、地球観測衛星に搭載されるセンサにより観測される宇宙空間から見た夜間の地表面の光量と言えるが、世界中のあらゆる地点のデータを、オンラインクラウドプラットフォームである「Google Earth Engine」よりダウンロードすることができる。「Google Earth Engine」では、気象や地形情報などを含む様々なデータが提供されているが、夜間光データについては、アメリカの衛星により観測されている2014年1月以降の毎月のデータが、その月が終わってから数か月程度の後に公開されている。
この夜間光データについては、実は、これまでにも経済活動の把握に利用されてきた歴史がある。モノを作ったり、買い物を行うなど経済活動のおよそ全ては夜間において光を必要とするため、そうした光量を測ることで、 夜間を含む経済活動全般を把握することができると考えられてきたからである。
人々の活動や建物などの集積が夜間の光量に影響を与えるとすれば、長期的な視点に立つ時、光量の“規模”は、人口規模やインフラの整備状況などを反映する経済社会の発展段階を捉えると考えられると同時に、短期的な視点に立てば、光量の“変化”は、その時々の経済社会活動の変化を反映しているとも考えられる。本コラムでは短期的な視点から夜間光データを見るが、データからどういった活動の変化が見えるのだろうか。
図1は、横浜市を中心とした神奈川県下の夜間光データを、2020年(左図)と2023年(右図)について、地図上で比較したものである。夜間の光量に応じて、明るいエリアを赤、暗くなるにつれて黄、橙、白、黒と示しているが、両図を通して、みなとみらいや川崎駅周辺といった繁華街で光量が多い一方、山間部や公園などで少ないことが確認でき、データが夜間の活動量の多寡を捉えていることがわかる。

また、そうした光量の変化に着目すると、コロナ禍で活動が制限されていた2020年に比べ、2023年では、繁華街を中心に光量が増加していることが確認できる。このように、光量は人々の活動状況に応じて変化しており(例えば、活動が活発な時に光量が増える)、逆に言えば、そうした光量の変化を見ることで人々の活動状況を捉えることが可能となる。
では、こうした光量の変化は、具体的にどういった活動を反映したものと言えるのだろうか。光量の変化といった情報が持つ意味をもう少し探るため、以下では、生産や消費といった人々の経済活動を総合的に捉える指標としてGDP、また、経済活動のうち生産活動を捉える指標として工業生産との関係性を確認する。加えて、人々の移動を捉える指標として観光客数や人流との関係性も確認する。夜間光データが、夜間における活動を通じて経済社会活動全般の変化を捉えているとするのであれば、こうした指標との関係性が見られるはずである。
図2では、2019年から2023年にかけての神奈川県の夜間光の毎年の変化(赤)を、横浜市のGDP(黄、右軸)、神奈川県の工業生産(青)の動きと比較している。また、図3では、同じ期間中の夜間光の動きを神奈川県の観光客数(緑)、横浜駅の人流(茶)と比較している[1]。

コロナ禍当初の急減と急回復、その後の回復ペースの落ち着きといった我々が経験してきた経済社会活動の変化は、夜間光データを含む全ての指標である程度確認された。その意味では、期待した通り、夜間光は、夜間に限らず、大まかだとしても経済社会活動全般を捉えるものと考えることができるのかもしれない。同時に、夜間光と他の指標では変化の方向がプラスとマイナスで異なるなど、必ずしも一致しない。
その上で、改めて強調したいことは、こうした既存の指標との関係性の如何によらず、衛星データは、光量の測定を通して、日々、世界中のあらゆる地点における人々の営みを捉えることができる、ということである(しかも、一国レベルといった広い範囲でも、ある観光スポットといった限られた範囲でも、観測範囲を選ばない)。
こうした衛星データを利用した定期的な観測は、観測地点の人々の営みをリアルタイムで把握するといった平時のモニタリング(見守り)はもとより、非常時のモニタリング、例えば災害発生後の復旧過程のフォローなどにも大きな役割を担う可能性がある。衛星データを使って何を見るべきか、経済社会分野での効果的な利用を考えていきたい。
[1]横浜市のGDP:「令和3年度横浜市の市民経済計算」(横浜市)、
市内総生産(実質)
神奈川県の工業生産:「工業生産指数」(神奈川県)、製造工業
神奈川県の観光客数:「令和5年入込観光客調査」(神奈川県)、
延観光客数
横浜駅の人流:「横浜市統計書(第9章道路、運輸及び通信)」
(横浜市)、東急電鉄・乗車人員(横浜駅)