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出生データで見る女性の社会進出の影響-女性の社会進出によって出生率は上がるのか、下がるのか?-

神奈川大学 経済学部
浦沢聡士研究室
亀山楓華・柳下友哉
尾形芽瑠・浦沢聡士

経済学部浦沢ゼミでは、官民が保有する様々なデータを用い、横浜市で起きていることを可視化し、その成果をコラム形式で発信しています。今回は、出生データを使って見えた横浜市の姿を紹介します。女性の社会進出の拡大は出生にどのような影響を与えていると思いますか?


 横浜市に関する様々なデータを用い、市で起こっていることの見える化をしてみよう。今回は、出生データを使って、横浜市における女性の労働参加の高まりと出生の関係を見る。

 出生データとは、戸籍に基づく出生、死亡、婚姻、離婚などに関する届出のうち、月々の出生の届出を集計したもので、出生の状況を明らかにするデータと言えるが、横浜市のデータについては「横浜市統計書(第2章 人口/出生の福祉保健センター別状況)よりダウンロードすることができる。「横浜市統計書」の中では、合計特殊出生率とともに、出生の状況が母の年齢階級別、また市内の福祉保健センター別に報告されており、毎年のデータが利用できる。なお、出生数については毎月のデータを「横浜市統計書(第2章 人口/人口動態)」より見ることもできる。

 横浜市の出生の状況について、まず、図1で、合計特殊出生率(15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)の長期的な推移(灰・棒グラフ)を見ると、全国で見られる傾向と同様、2015年にかけて一時的に上昇した時期を除けば、低下傾向となっている。ただし、こうした傾向を年齢階級別の出生数(当該年齢階級の母が1年間に生んだ子の数)で見ると、それぞれの世代で異なる動きが見られる。具体的には、20~30代前半では、出生数が低下している一方(赤系・折線)、30代後半以降では上昇しており(青系・折線)、背景には、平均初婚年齢の高まり(全国で見ると、1985年の25歳前後から2022年には30歳前後へ)や第一子出生時の平均年齢の高まり(27歳前後から31歳前後へ)といった、いわゆる晩婚化・晩産化などがあると考えられる。

 女性の社会進出が進む中、こうした社会的な変化が出生に与える影響については様々な視点から議論されているが、両者の関係性については、女性の社会進出が進むと出生率が高まるといった正の関係性、逆に女性の社会進出が進むと出生率が低下するといった負の関係性の両方の可能性が指摘され、一般的には、そうした関係性は、国や地域の違い、また同じ国であっても時代の違い、さらには年齢の違いなどによっても変わり得ると考えられている。横浜市については、両者の関係性についてどういった姿が見られるのであろうか。

 図2では、横軸に、女性の社会進出を表すものとして女性の労働力率を用いている。この労働力率については、15歳以上人口に占める労働力人口の割合として定義され、女性の労働市場への参加の状況を捉える指標と言えるが、女性の社会進出が進む下、多くの女性が仕事を求めるような場合に高まる。また、縦軸には図1で確認した出生数をもとに年齢階級別の出生率(当該年齢階級の女性人口に占める出生数の割合×1,000)を求め、1985年から2020年にかけての労働参加との関係性を見ている。

 基本的に、期間中、どの年代でも労働参加が進む一方、図1で見た通り、晩婚化・晩産化の影響もあり、特に20代後半での出生率の低下、また、30代後半で出生率の上昇といった変化が顕著となっている。この結果、両世代で見られる労働参加と出生の関係は、前者は負の関係性(右下がり)、そして後者は正の関係性(右上がり)となって表れている。

 30代後半について、女性の社会進出が進む中にあって、同時に出生率が増加しているのだとすれば、仕事と出産・育児(一段落した後の子育ても含め)といった両立を可能とする個々人のライフスタイルや社会環境の変化、制度の整備などが背景にあると考えられるのであろうか。逆に、20代後半について、やはり社会進出が進む中で晩婚化・晩産化に繋がり、その結果、出生率が低下しているのだとすれば、両立の難しさといった点とはまた異なる課題に直面していることも考えられる。見える化の結果から、女性の労働参加の高まりと出生の関係については世代によって異なる関係性が確認されたが、仮に出生率の上昇を目指すのであれば、結婚観や家族観、伝統的な性別役割分担意識、また経済環境など様々な変化の中で、各世代や世帯が直面するそれぞれの課題を把握し、対処することが重要になるのではないか。