「無双夢想」【11月13日(水)】
「三国一」という意味フラペチーノな言葉がある。三国しかないのに、これで「世界で一番の」「世界で類を見ない」というような意味をもつ。
はあ?何で三国で世界全部を表すんだよ!と善良な一般市民は声を荒らげることであろうが、ここでの三国とは日本、中国、インドの三つの国を表し、古代〜中世の日本における世界認識が反映されている言葉なのである。当時の日本人にとって、ヨーロッパだのイスラム世界だのはよく知らない世界だから、数にカウントしていないのだ(朝鮮は入らないのかよ!という感じはするものでこの言葉が使われ始めた当時から日本人は朝鮮より日本の方が優れた国だという自負をもっていたのかもしれなくてネトウヨの文化的遺伝子の根深さを思わせる奥ゆかしさもあるのだがまあそれは本題ではない)。
証拠として信頼と実績の日国を引いておこう。
ほーらね、言った通りでしょ……って、三国無双?え?三国無双て歴とした四字熟語なの?三国志を元ネタにしてコエテクが勝手に作った言葉じゃないの?マジ?
驚嘆の思いで「さんごくむそう」を検索する。あいにくそんな言葉は日国ではヒットしない。なーんだ、やっぱりね。「三国無双」なんて言葉、そんな昔からあるわけないじゃん。さっきのは日国の編集者にコエテク信者がいて、うっかり語釈に余計なことを書いてみただけだろう。意外と日国にもお茶目な要素があるもんなんだな……いや、待てよ、ひょっとして……
スマホの検索窓に文字列を打ち込んでGoogleに頭を垂れることに慣れ親しんだ模範的大衆はもう忘れているだろうが、国語辞典というのは漢字表記ではなく読みで言葉を引くのである。「三国無双」を俺はゲームタイトルに釣られて「さんごくむそう」と引いてしまったが、「無双」を「むそう」と読まねばならぬ必然性はない。まさか…もしかして…よもや……
恐る恐る改めて文字列を入力すると、果たしてよもやよもやであった。
ひょえー!ほんとにあるやん!「さんごくぶそう」か本来の読みなのかよ!
いやー、全然知らんかったな。え?これ、コエテクは知っててやってんのか?もともと三国無双という四字熟語が存在していてそれは中国の三国志(言うまでもなく三国志とは中国内の魏呉蜀という三つの国の争いであって、日本と中国とインドの大戦争のことではない)とは全く関係のないことを理解しながら、あえて三国志にかこつけたお洒落タイトルとして使っているの?三国志の舞台の中で無双するものこそが、世界一の三国無双だってこと?マジ?
それとも単なる偶然なんだろうか?一人のプレイアブルキャラで集団をバッサバッサなぎ倒すゲームデザインがあって、そのさまはまさに「無双」と呼ぶにふさわしく、ちょうど三国志が舞台のゲームだから組み合わせて「三国無双」とタイトルをつけたところ、たまたま既存の四字熟語と被ったってこと?いや、でもそんな偶然は考え難いか……「三国無双」の一作目ができた当時はもう少し一般的に知られた言葉だったのかな?それとも俺がムチムチの実の能力者すぎるだけなんだろうか……
あんまりにも驚いたので、ちょうど今日の授業で「三国一」という語を扱ったクラスで、この驚きと感動を生徒たちに披露したところ、令和キッズの彼ら彼女らは、「さんごく……む、そう……」「こうえい……てくも……」という無垢で怪訝な表情を浮かべていたのだった。
たのむよ、コエテク。「ちいかわ無双」とか作ってもっと若年層にも三国無双の存在を知らしめてくれ。