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「今来たばっかり」はどこからきたのか、という問いへの小さな手掛かり。

作りかけている同人誌に関する調べものの一環で、本棚に刺さっていた金井 覚「アイドルバビロン 外道の王国」という本を久々に手に取った。
すると、その本の冒頭に(調べものの本筋とはあまり関係ないのだが)「今来たばっかり」に関する興味深い記述があったので、ネットの海へ放流してみることにする。

*以下の内容について、当時を知る方の「いやそうじゃないから」というご指摘がもしありましたらコメント等でお待ちしています。

そもそも「今来たばっかり」って?

「今来たばっかり」というのは、アイドルや声優のライブにおけるコールアンドレスポンス(のようなもの)の定型のひとつだ。

ライブの構成として、最後の曲を披露する直前には、その日のイベントを簡単に振り返るようなトークが差し込まれていることが多い。
そんなラス前のトークの締めとして「それでは、次が本日最後の曲です」というようなセリフが発せられると、客席からは「えー」という声とともに、何人かが「今来たばっかりー!」と叫ぶ。そういうお約束が存在する。

楽しい時間をもっと続けてほしい、というステージ上への好意の表現のひとつ、とでも言えばいいだろうか。
筆者がアイマスにはまって声優現場に(再び)頻繁に通い始めるようになった2006年前後にはすでに、ある程度「そういうもの」として存在していたように思う。

こういうものは誰かが始めて、面白かったから乗っかろうという人が出て、界隈やその外側に広まっていくものだ。ただ「今来たばっかり」については、その源がよくわかっていない。
ニコニコ大百科には「発祥は不明だが、ライブイベントなどにおける一種の"お約束"として、1999年頃には既にアイドルファンの間で用いられていた記録があり」という記載が確認できる。(当該記事へのリンク

「今来たばっかり」の源流?

そんな「今来たばっかり」の源流に関すると思われる記述は「アイドルバビロン」の比較的冒頭部にある。以下にそれを引用する。

──ベルマーレっていうのは?
Kitty「(Jリーグの)ベルマーレ平塚の服をいつも着てるんですよ、曲とは関係なしに。で、いつも踊ってる。“ベルマーレ”には必殺技があって、MCで“次で最後の曲になりました”となると“オレいま来たとこーー”って必ず言うんですよ(笑)。それ聞いて“やった! 本物聞いた”ってみんな喜ぶんです。」

金井 覚「アイドルバビロン 外道の王国」P.23

この「アイドルバビロン」は著者がアイドルグループ「制服向上委員会」(以下、SKi)を中心としたアイドル現場のオタク(*この書き方は今風の書き方であり、本書の中ではもう少し違う表現が用いられているが、本稿ではあえてこう書く。以下同じ)に話を聞いたインタビュー集というつくりだ。

上で引用しているのは、Kitty氏というSKiのコミュニティに強い影響力をもっていたというオタクへのインタビューの一部だ。ちょうど、SKi現場で印象に残るオタクについて話す流れのうち「ベルマーレ」とあだ名されていたオタクについて話している部分になる。

SKiというのは今でいう「地下アイドル」の源流のような、知る人ぞ知るアイドルグループで、多くのファンはその現場にたどり着く前に他の現場を経由していると考えられる。
そうしたなかでベルマーレ氏の「オレいま来たとこーー」に対して周囲が「本物聞いた」と喜ぶ、とされているのは、この「オレいま来たとこーー」が「今来たばっかり」の源流か、限りなく源流に近いところにあることを示してはいないだろうか。

インタビューが実施された時期は明示されていないが、本書に登場する日付を見る限り、Kitty氏へのインタビュー自体は95年春~95年9月の間に行われているものと思われた。

SKiの結成は1992年。それから95年にかけてのどこかで「オレいま来たとこーー」が生まれる。
そしてSKi現場から他現場に輸出され、いつの間にか「今来たばっかり」として定着した、というストーリーは飛躍が過ぎるだろうか。

「今来たばっかり警察」は定着するか

ところでなぜ今「今来たばっかり」なのかというと、個人的に非常にホットな単語だったからだ。
その原因といえるのが2024年9月7日に行われた「学園アイドルマスター DEBUT LIVE 初 TOUR -初心公演-」の名古屋公演だ。

ここに出演された伊藤舞音さん(倉本千奈役)が行った、客席からの「今来たばっかりー!」に「うそつきー!」と返し「今来たばっかり警察です!」と小芝居を打つネタ(ネタと言っていいだろう)が非常に新鮮かつおもしろかったのだ。(本稿のタイトル画像が千奈なのはそこに由来する)

学園アイドルマスターのアイドル達を3グループに分けて行われている「初」ツアーの中でも「今来たばっかり警察」を行ったのは今のところ「初心」公演組だけで、ブランド内でも特に広がる様子はない。
しかし、これがアイマスの他のブランドや、アイマスではない他の現場に間違って広まったりしないだろうか、と少し期待している自分がいるのである。

参考資料

金井 覚「アイドルバビロン 外道の王国」太田出版、1996年

ニコニコ大百科「えーっ!今来たばっかり!!」(2024年10月19日閲覧)

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