シャニマス5thライブ「If I_wings.」day1考
3/18-19の2日間にわたって開催されたシャニマス5thライブ「If I_wings.」の構成に、情緒をかなり手荒く揺さぶられた。
特にday1は二次元アイドル系のライブではついぞ見たことのない「演出効果のために告知を一切しない」というすさまじい構成。
長らく二次元アイドル系のコンテンツを追いかけている自分としてもついぞ見たことがないものを見せられ、当日から今(3/22未明)にいたるまで、「あれは何だったのか。何を見せられたのか」と、個々のパフォーマンスよりもライブの存在そのものについて考えてしまっている。過去、ほとんどない経験だ。
一度ちゃんとメモを取りながらアーカイブを見て、自分なりの考えをまとめておいたほうが良さそうだなと思い、実際にメモを片手に初日のアーカイブを見た。そのメモをもとに書いたのがこの怪文となる。
自分の今の困惑を含めた感想をまとめる/残すために書いたものなのでおそらく読みにくいし、いろいろな意味でネタバレへの配慮はない。
もしこの先を読み進めるのであれば、その2点は念頭に置いてほしい。
day1における「終わり」の表現(概要)
「If I_wings.」day1。
冒頭の協賛クレジットの後、これまでならばあったはずのはづきさんの諸注意がなく、かわりに天井社長とはづきさんの掛け合いが流された。
その内容は前向きなものではなく、はづきさんの「すべてが終わるわけではありませんから」と何らかの終わりが示唆されるものだった。
その後、13曲目の「Anniversary」を皮切りに、「終わり」を示唆するような、あるいは「アイドル活動は過去のもの」となっているかのようなボイスドラマが曲の前に差し込まれるようになる。
そして29曲目。「これが最後の曲です」として披露されたこの日はじめての全体曲「Resonance+」。
「Resonance+」が終わり、アンコールで演者さんがステージに登場するまでの間、通常であれば差し込まれるはずの告知も、そうした告知がない場合などによく用いられる寸劇などもなく、ただただアンコールの声とクラップのみが聞こえる中で、スクリーンにはライブタイトルの画像が表示されるだけという異様な時間が流れる。
そしてアンコール。卒業式のようにも見えた揃いの衣装での「いつかShinyDays」。
MCのあと、この日最後の曲となる「Multicolored Sky」ではモノクロームの空の映像をバックに、最後のラララ…で一ユニットずつ歌うのをやめてステージから去っていき、最後にのこった真乃(関根瞳)とめぐる(峯田茉優)が上手と下手に分かれて、暗転。
客席からはアンコールの声が発されるなど混乱/困惑の見られる中、終演を告げるアナウンスが流れた。
シャニマスというゲームは、アイドルマスターシリーズとしてはアケマス以来久々の「条件未達による活動終了」が明確に描かれるゲームである。
day1はその「活動終了」を想定した「If」を描いたものだったのだろう。
初日の「If I_wings.」は「If I had wings.」(もし、翼があったなら)だったのではなかろうか。
共通する「If」
「If I_wings.」day1のセットリストは全31曲。
内訳としては7ユニットのユニット4曲ずつ28曲と、最後の全体曲3曲となる。
これは、WING編でシーズン4まではたどり着いたものの条件未達により準決勝進出ができず、かわりに最後のライブを行うことになったという想定をユニットごとに表現しようとしたのではないかとも思える。
その状況はまったくのプロデューサー不在によって生まれたものではなく、ボイスドラマの内容から考えるに、プロデューサーが何らかの理由で途中退場したことによるもの、と考えたほうが自然だ。
このプロデューサーの途中退場こそ、初日の「If」だったのではないだろうか。(これについては、この後のユニット別の、アルストロメリアとシーズの項に書く)
なお、セットリストを見るとday1も1曲目から7曲目(最初のMCの直前)まではPWシリーズのユニット曲が並んでおり「冒頭のドラマは不穏だったけど、いつも通りの周年ライブなのでは?」と思わせるような擬態がおこなわれている。奇襲効果を高めるための「タメ」であったのだろう。
その7曲のあとの最初のMC。ここでは演者本人としての発言は名乗りだけに抑えられており、そこから「If」が牙をむき始めることになる。
ユニットごとの「If」:イルミネーションスターズ
day1で描かれたイルミネーションスターズのIfは、プロデューサーの途中退場による灯織の脱退と、活動終了後の解散であったと考えられる。
day1のイルミネは曲前にさしこまれるボイスドラマこそなかったが、イルミネの二人のMCのトークの内容が明白にこれまでのライブと異質で、それが灯織の脱退と、その後の活動終了、解散を示唆しているように思われた。
アーカイブ期間中であればMCを、とくに7曲目の後の最初のMC(セリフ)と、アンコール後の最後のMCをよく聞いてほしい。
ひとみんとだまゆの口から一言も「灯織」とも「三人で」とも発されていないのだ。
3rdツアー以降のれいれいがいないステージでも、とくにだまゆが「三人で」ということを強調していた姿を見てきたこともあり、アーカイブを見直してそのことに気づいたとき、鳥肌が立った。
あきらかに演出として「灯織」と「三人」をイルミネのNGワードとしてMCの内容の統制をとっていたとしか考えられないのだ。
「イルミネイトコンサート」の階段裏モニター映像がサインライト風だったのだが、初日はピンクと黄色だけしか表示されなかったのも、灯織の脱退というIfを示唆していたものと感じられる。
31曲目の「Multicolored Sky」ではシーズからアンティーカまではユニットごとに退出していったが、イルミネだけはひとみんが下手に、だまゆが上手に分かれて退出している。
これが解散のメタファーでないことがあるだろうか。
「If I_wings.」day1はれいれいのやむを得ない初日の欠席も演出の要素として取り込み、プロデューサーの途中退場によりイルミネの三人がバラバラになっていくという想定を描いてみせたように思えてならない。
(イルミネのIfにおいて、プロデューサーの途中退場の原因として、灯織がなにか自責の念に駆られるようなことがあったのかもしれない、というのはさすがに妄想が過ぎるだろうか)
ユニットごとの「If」:アンティーカ
day1におけるアンティーカのIfは(少なくとも283プロでの)活動終了であろう。
16曲目「Black Reverie」の前に差し込まれたドラマでは「最後」という言葉が強調され「最後に最高で最強」を見せると語られている。
ただ、最初のMCでは恋鐘が「どこでだって歌い続ける」とも宣言しており、ある意味では前向きな終わりであるようにも感じられるのだが。
ユニットごとの「If」:放課後クライマックスガールズ
放クラは「ユニットとしての活動を終了、それぞれがそれぞれの道へ進んだ後」の時間軸から見た最後のライブという描き方をされていたように思う。
冒頭のMCは最後のライブと同じ時間軸(=今日をクライマックスにすることを誓います)であったと思われるが、「第一志望いっしょじゃなかった」という歌詞がある「拝啓タイムカプセル」(14曲目)の直前に差し込まれたボイスドラマでは、夏葉が「あの頃の私たち」と語っており、彼女たちはアイドル以外の、それぞれの道を歩むことになったのだろう。
ユニットごとの「If」:アルストロメリア
アルストロメリアはもっとも直球に、卒業(引退)ライブの日のアイドルの姿をIfとして描いたものと考えられる。
2回あったボイスドラマのうち、2回目(27曲目「ダブル・イフェクト」前)では特に直接的に「次が私たちの最後の曲」「アイドルじゃなくなっちゃう」というセリフがあり、卒業ライブの一幕であるかのような空気だった。
2回のボイスドラマ後に歌われた「Anniversary」も「ダブル・イフェクト」も悲しみを乗り越えてそれでも、という歌詞であり(特にダブルイフェクトの「例えば翼失っても」は本当に直球だったと思う)、それだけに強い力で殴られた。
そんなアルストロメリアのボイスドラマだが、1回目(13曲目「Anniversary」前、全体を通してもこれが最初のボイスドラマである)で語られている「みんなで考えた幸せ」を考えた「みんな」の中に、アルストの3人に加えてプロデューサーがいたことが明言されており、day1の世界線においても、ある時点まではプロデューサーは確かにいたと考えるべきだろう。
ただ、day1冒頭の社長とはづきさんのボイスドラマにはプロデューサーの存在が感じられないことと重ねた結果、途中退場という考えに至った。(day2の冒頭のボイスドラマでは「セブン#ス」で描かれたプロデューサーの手になる企画書が登場し、それがプロデューサーの健在を示している)
ユニットごとの「If」:ストレイライト
ストレイライトもイルミネ同様、day1は曲前のボイスドラマはなかった。
ただ、最初のMCにて「明日が今日にならなかったとしても」(冬優子)、「いいパフォーマンスをすれば今日が明日になるっすか?」(あさひ)というようなセリフがあり、活動終了が暗示されていたように思われる。
ユニットごとの「If」:ノクチル
ノクチルの描かれ方は放クラと近く、ただの(アイドルではない)幼馴染の高校生4人にもどった姿を描いていたように思われる。
21曲目、制服を着ての「今しかない瞬間を」はただの高校生にもどった後の姿であり、22曲目の「アスファルトを鳴らして」はただの高校生に戻る直前の姿だったのではないだろうか。
「今しかない瞬間を」の前のドラマで透が発する「ウチらだけのステージ」とは、アイドルではなくなり、もはや見る者がだれもいなくなったという意味合いであろう(だからこそ学校の教室なのであり、その手にあるのは楽器ではなく掃除用具や文房具になるのだろう)。
そして、変わらないでいることが逆に望まぬ変化を招いてしまう、という歌詞の「アスファルトを鳴らして」の前のドラマでは過去のコミュのセリフを引きながら、アイドルだった頃を小糸が回想するようなつくりになっているのだろう。(なお、PWシリーズの楽曲の前にドラマが付いたのはこの「アスファルトを鳴らして」のみである)
ユニットごとの「If」:シーズ
シーズはにちかと美琴の二人がすれちがったまま最後のライブを迎えた姿をIfとして描いたのではないだろうか。
day1最初のMCのにちかと美琴のセリフは全くかみ合っておらず(もしかすると、それぞれの内心のセリフだったのかもしれない)、25曲目「OH MY GOD」の直前のボイスドラマにいたっては、聞こえるのはにちかの言葉だけだ。
その中でにちかは「なみちゃん、美琴さん、プロデューサーさん、私」と挙げており、たしかに彼女の前にプロデューサーがいたことが示される。(ここで挙げられる人物として、隣にいるはずの美琴よりも先にあこがれのアイドルにすぎない「なみちゃん」が先に来るのも随分示唆に富んでいる)
ただ、day1の世界線においてのプロデューサーは、おそらくは「モノラル・ダイアローグス」の直前か途中で退場してしまい、にちかと美琴の関係性は改善されないまま、シーズは活動終了にいたるのではないだろうか。
逆にday2ではにちかと美琴が会話をしており、それは「セブン#ス」で美琴がにちかを見るようになれたことと対応しているはずだ。
62曲のIf
day1で各ユニット4曲ずつ、28曲を通じて描かれた七つのIf。
その終着点として歌われた全体曲が3曲。
セットリスト合計で31曲。
day2も同じだけの曲数がうたわれていて、31曲。
2日間合計で62曲。
この数は、アケマスのプロデュース限界(=62週)ときれいに重なる。
成功しなかったプロデュースと、この先へ進むことができるプロデュースの、ゲームならではの可能性のそれぞれを2日間にわたるライブイベントとして描こうとした結果として、そんな数字があらわれたのはきっと偶然だろう。
ただ、プロデュースの姿を描こうとした結果に、このような符合が現れたことには若干の畏れを抱かざるを得ない。
最後に、day1の曲目と特殊演出の一覧を下記に(画像であるが)記載する。ここまで読んだ奇特な方がアーカイブを見返す際など、参考になれば幸いだ。
(追記)day2冒頭の記憶と2幕物としての「If I_wings.」
以下は3/22朝に追記したもの。
僕は幸運にもday1、2を通して現地に立ち会うことができた。
そんな中で強く印象に残っているのがday2の始まりだ。
諸注意がなく、はづきさんの声とともに社長室の背景がスクリーンに出る、day1と同じ始まり方をした瞬間に会場の空気が張り詰めたのが分かった。
少しして社長の口から「企画書」の話が出た瞬間にどこからともなく歓声があがり、会場内の空気が緩んだ。昨日とは違う世界線だ。と。
day2も1曲目から6曲目まではPW曲が続く。
day1とday2でセトリが大きく変わるのは7曲目からだ。
イルミネのボイスドラマが流れ、その中で真乃が「マイクを置くという選択もあり得た」と明言する。でも、そうではないんだ、と。
そして流れるのが「ヒカリのdestination」。イルミネの始まりの曲だ。
声を出そうとして、掠れた涙声しか出なかったことを覚えている。
このカタルシスは間違いなくday1があったからだろう。
終わってみれば「If I_wings.」は幕間が20時間ほどある2日がかりの2幕物の舞台だった。
ただ最初からそれを明言していたら、ここまで揺さぶられただろうか。
これまでと同じ周年ライブですよ、という擬態をday1の7曲目までしていたからこそのインパクトだったとは思うのだ。
ところで、プロデューサーがいたうえであのday1だったんだな、という状況証拠的なものがあることに(今更)気づいた。
それがtwitter企画の283レッスンノートだ。3/15のレッスンノートで浅倉と樋口がノートの上で「振り回していいですか」「振り回すな」のやり取りをしていた通りの演出がday1であった。
そんなレッスンノート最終日である3/17には、下記のようにプロデューサーの存在が明確に示されている。
プロデューサーもday1のゲネに立ち会っていたとすると、何がどうなったらあんな生前葬みたいな演出に…、という疑問は残るのだが。