先輩日記① 先輩がSEXのことを考えすぎておかしくなった
3/7(火)
家に帰ると妖怪がいた。
よく見ると妖怪に限りなく近づいた先輩だった。
「なんでいるんですか先輩」
「SEXについて考えていた」
先輩は言語野を銀貨3枚で売り払ってしまったのでまともな会話ができない。
「俺は異性間性交渉未経験者なのでSEXに憧れ続けていたが、ついにはSEXに失望してしまった。蛙化現象だ」
絶対に違う。
それと隣にSEXのことを考えている人がいると落ち着かない。実家のリビングでFate/stay night Heaven‘s Feel を見ていたら間桐桜の濡れ場が流れ始めたときの感覚を思い出す。
「恋人同士がSEXをする。それはいい。しかし、その行為が恋人たちの愛情表現の極致であるとされる現状が俺を苛立たせる」
「SEXERたちは男女の凹凸を平均化する行為が愛のゴールであることを甘んじて受け入れ、更なる恋の追求を諦める凡庸な人間に成り下がる。そうなるくらいなら俺は、彼らに尖ったひとつのチンポコでいて欲しかった。凹んだひとつのマンp__」「わかりましたから」
先輩は非童貞のことをSEXERと呼ぶらしい。
「俺の出で立ちを見てどう思った」
「風水上よくないので帰ってほしいと思いました」
「これが『SEXの向こう側』だったとしたら、どうする」
「男女がバナナをくくりつけ、ガムテープで雁字搦めになり向かい合う行為これこそが究極の愛情表現だったら
どうする!!!!!!!!」
先輩は突如激昂した。
この人童貞を拗らせておかしくなってしまったんだ。そう気づいた俺は居た堪れなくてなんだか泣きそうになってしまった。
「そんなこと言ってもそもそも先輩には性交渉をする相手もバナナ仮面舞踏をする相手もいないから、結局は机上の空論でしょう……」
「あのなあ、俺はそんなことを話題にしてるわけじゃないんだ」
「コンビニの募金箱にユッケを敷き詰める行為が史上の愛かもしれないし、職員室でハニーフォカッチャを投げまくる行為が究極のLOVEかもしれないんだ。だのにSEXごときが幅効かせて、神聖化され、童貞たちが蔑まれる。こんな世の中で、
いいのか!!!!!!!!!!!」
「そもそもSEXERだからって偉いわけじゃないし、運がよかっただけで童貞を見下していい理由にはならないし、性病リスクでしかないし!」
段々と主張がありきたりになってきた。
たぶんこの人の本心はこれだ。
こまっしゃくれた哲学モドキでコンプレックスを包んで俺の同意を得ようとするのは彼の悪癖である。まあ愛嬌でもある。
「究極の愛うんぬんはさておきですね、恋人関係も性交渉も経験していない先輩が講釈垂れたってアフィリエイトのコタツ記事と何にも変わりないですよ。バナナを冷蔵庫に入れて、こけしをテレビ台に置いて、服を着て、出ていってください。先輩がいると部屋の空気がセピア色になるんですよ」
「お前……」
先輩はわかりやすく落ち込み、すごすごと出ていった。つるみはじめた当初はこの背中が少しかわいそうに見えたものだった。
同情する義理はない。
「俺も童貞ですよ、先輩」
とはいえ今度、ジュースでも奢ってあげよう。