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一度も仕事に困ったことがないのはなぜなのか――を、考えてみる。#02
「継続」だの「現状維持」だの「安定」だの、そんな夢も希望もない言葉を「新年の抱負」に掲げ続けてはや20年、業界の片隅でひっそりと、特別儲かりもせずさりとて貧乏もせずホドホドに生きてこられたのは、それはそれでほんの少し、ちょっとだけ、自分をほめてあげてもよいことなのではないだろうか――と、そんな風に最近ようやく思えるようになってきた。
これは#01の餅は餅屋の続きになるのだけれど。
コーディング込みで仕事を請けていたころは「ここはあのソース流用でいいかな」「ここ新しいクラス定義しなくちゃいけないからやめちゃうか」「カラム落ち怖いからこの配置はやめとこう」――そんな風に考えながらデザインしていた。
当時は断るくらいには仕事のオファーがあったし、数をこなしてナンボのフリーランサー、あれこれ工夫して要領よく時短するのは必要悪と言えばそうなのだが、コーディングを捨ててすぐ、あることに気付いた。それは、いつの間にか自分が「コーディングがラクチンなデザイン」しかやらないWEBデザイナーになっていた、という事実だ。
無意識に自分のコーディングスキルの限界にデザインのレベルをあわせてしまっていたわけで、つまりそれは、自らデザインの幅を狭め小さくまとめる「逃げのデザイン」でしかなかった。
逆の場合はどうだろう? デザインが苦手なコーダー寄りの人は小手先の動きや流行りのアイキャッチ要素でお茶を濁してしまってはいないだろうか?
これはコーディングとデザインを両方こなす二刀流の人が陥りがちな罠であり、そのデザインを見ればコーダー寄りの人かデザイナー寄りの人か、だいたいわかってしまう。
コーディングを捨てた今となっては、
画面を斜めにぶった切ろうが自由!
縦横ナナメコピーをどう置いても自由!
ブロークングリッドスプリットスクリーンどーん!
はい巨大タイポどーん!
リミッター完全解除、てなもんです。
だって優秀なコーダー/プログラマさんがきっとなんとかしてくれるから!!
※クライアント提出前に必ず「本当になんとかなるのか」をしっかり確認してもらいましょう。
コーダー・プログラマの方々は「あーいるいるこういうアホなデザイナー」と思いながら読んでいるのかもしれない。そのアホのデザインをどうブラウザに再現するのか、面倒くさかろうが少し頑張ってみたことで、なにか新しいものを得られるかもしれない。
いずれにせよ、このWEB業界は経験や知識などといった蓄積されていくものはたいして役には立たない。なにしろほんの数年の周期でベースの技術が変わり通信環境が変わりデバイスも変わり、開発環境も言語もデザインの流行りもすべて変わってしまうのだ。
今あるスキルの殻に閉じこもっていては、勝負できるのはいいとこ5年だ。
コーディング込みの仕事を請け続けていたら? かつての「逃げのデザイン」を続けていたとしたら?
まだWEB関連の技術者が少ない時代だったからなんとかやってこれたようなものの、今や石を投げればWEBデザイナーに当たる時代。まず間違いなく40代を迎える前には若い同業者にとってかわられて、とうに食いっぱぐれていただろうと思う。
起業するでもなくジョブチェンジするでもなくイチ技術者として自営業で在り続けるつもりなら、20代30代の同業者は、一度くらいはシミュレートしてみておいたほうがいいかもしれない。自分が40代を迎えた時、求職活動をしたとしてそれなりの会社の正社員の座を獲得できる確率はどのくらいかを。
「ああこの人はフリーでは食えなかったんだな」
年齢はさておき、フリーからの求職活動についてまわるのはそんな「落伍者の烙印」だ。
フリーランスの技術者として生きていく、ということは、自分の年齢と向き合い、その年齢なりの価値を生み出していけるかどうか――が、長く続けられるかどうかのポイントとなるのかもしれない。