「Panoramic View」で考えていること
2023年10月22日(日)、大阪は野田のMagaYuraにて、人生で初めてライブイベントを主催しました。名前は「Panoramic View」で、略称は「パノラミ」
とてもありがたいことに、20人ぐらい入ったら混雑するような、そんな会場で、25人ほどの方に来ていただきました。
来ていただいた方々に楽しんでもらえたんじゃないかな、と思っているのですが、それだけじゃなくていろいろ個人的に思うことがいろいろとありました。じゃあ、この「Panoramic View」とは何なのか、たまには心の内を文字にして晒してみようと思います。
…と思って書いてみたら結構バチバチな文章になったので、気が向いたら読み流してみてください。
はじまりは
MagaYuraとの出会いは山田アタリさん主催のオープンマイク「ぽえゆら」でした。元々は関東出身の方が主催するイベントで大阪の会場と出会うというのも変な話ですが、本当にそうなのだから仕方がない。会場に大きな窓があって、ライブを観ていると背景に環状線の電車が走っている、とんでもない場所でした。不思議と防音はそれなりにしっかりしている。
ありがたいことに、MagaYuraでライブさせてもらえるようにもなり、ふらっと2Fのバーに飲みに行ったりして、オーナーの扇芝さんともいろいろ話すうちに、「よかったらポエトリーとhiphopのイベントやってみーひん?」と提案を受けました。そのときの感想は、おもしろそう。そして、A4の紙1枚程度でざっくりこういうことをやる、そしてこうしていきたいという、うっすい企画書のようなものを作り、渡しました。これがパノラミのスタートです。
立ち位置だとか
非常にありがたいことに、2023年2月19日に今出川PUB VOXhallで初ライブをしてから、比較的さまざまな場所に呼んでいただける時間を過ごしていました。オープンマイクやスラムも含めると、だいたい毎月2回以上は板の上に立っている、しかもライブをするときは10分とか15分はほとんどなく、だいたいは20〜30分で。ルーキーとしては明らかに環境が恵まれすぎている。
そして7月にはblue_beatさんにトラックを作っていただいて、初めて曲を配信しました。いろいろ確認していると、数ヶ月経った今でも聴いていただいているようでして、ありがとうございます。
個人的にはこの1年、かなりいろんな人に育ててもらったなぁと思っているのですが、徐々に、属しているジャンルがわからなくなってきました。ライブの軸はポエトリーリーディングとラップ(ポエトリーラップではなく!!!!)で、たまに短歌もライブに取り入れたりするわけですが、ポエトリーリーディングの現場に行くとラッパーとして把握されることが多く、hiphopの現場に行くとポエトリーの人として理解されることが多くなってきました。境界線の上で反復横跳びでもしているような、そういう。
もちろんですが、そのおかげで繋がった縁や、そのおかげで呼んでもらったイベントも数多くあります。先日初めて出演させていただいた箱では、8組の出演者がいる中、3組がノイズミュージック(37.5%!!)でしたし、その中でポエトリーとラップを混ぜてライブさせてもらったなんてこともあります。
そんな立ち位置にいて、やはり考えることも増えてきました。たとえばhiphopのイベントはpick-up liveやguest liveなど立ち位置が決まっていることが多く、guest liveでもない限り持ち時間は長くて一枠15〜20分、だとか、そもそもポエトリーのイベントはオープンマイクやスラムといったプレイヤーのためのイベントが多く、ライブをしている人は数えられるほどしかいない、とか。人のアクトを観ていて、もっと観たいとか、この人はもっとやってほしいとか、そういうことを考えるようになりました。ただ、これはシーンの構造上の問題でもあって、どうしようもないことではあります。
そして危機感
その思いはまさかのKSJ大阪大会で強く増幅することになりました。KSJとは、「コトバスラムジャパン」というポエトリーリーディングの全国大会で、全国各地で予選があります。その大阪大会に出場したのですが、お客さんよりも出場者と運営の数のほうが多かったのでは?と思うぐらい。日本でもっとも大きなポエトリースラムの予選で、お客さんがかなり少なかった。もちろん僕自身も宣伝はしたつもりですけど呼べなかったわけで、責任はあると思ってます。ただ、それで思ったことは、今のやり方では10年後におもしろいものが観れなくなるだろうなということでした。プレイヤーとしてではなく、ファンとして表現を受け取ることすらできなくなる、と。
じゃあやってみようや
自分自身では何か打算があるわけではないし自覚もないのですが、フットワークが軽いらしく、今回も例に漏れず(?)、じゃあやってみようやという考えに至りました。きっかけは扇芝さんの提案なので、本当にありがたい。そしてhiphopとポエトリーの人を少なくとも1組ずつ呼んで、30分のライブをしてもらうという、きっとほとんどの人が観たことのないミックスジャンルライブイベントを開くことにしました。どちらも好きで、どちらの人も知っているからこそ。誰もやっていないなら、やってみればいい、ただそれだけ。
もちろんいつもお世話になっている京都の詩人choriさんのブッキングイベントがあって、そこではポエトリーリーディングの人も定期的にライブしていますし、名古屋では2023年初頭ぐらい?にししどさんがポエトリースラムとMCバトルを一気にやるヘンゲンジザイというとんでもないイベントを開催していました。だから、先人にリスペクトを込めて、僕にしかできないことを、と意識しました。めちゃくちゃ意識しました。THA BLUE HERBのワンマンを観たときにBOSSさんが言ってた「ないなら作る、いないならなる」ってやつです。多分。知らんけど。
経緯や計算はいろいろあって、pLRayerさん、待子あかねさん、ししどさんのライブ、オープンとクローズはあつきんさんにDJをお願いするという、初回はそういう形になりました。この世でこの全員のアクトを観たことのある人は、第1回パノラミ以前にはほとんど僕しかいなかったはず。それぞれの生き方があって、それぞれの表現があって、でもうっすらと共通点のようなものがあって、そういう表現者にオファーを請けていただきました。もう1つは、これから継続して定期的に開催する前提で、初回で方向性を見せてもらえるという確信を持てる方々。
さらにフライヤーはMagaYuraで出会った同い年の版画家山田HOWさんにお願いしました。正直芸術作品はよくわからないので、この方がどうすごいのかと言われてしまうとよくわからないなんていう無責任な回答になってしまいますが、会場となるMagaYuraで出会ったことと、きっとこの人ならいい仕事をしてくれるだろうなという直感。そしてとてもざっくりした依頼をして(ほんまにごめん)、最高のフライヤーを作ってもらいました。
確信とそれ以上
正直なところ、アクトの確信はありました。全員意図を汲んでくれると思っていましたし、その中でこのタイムテーブルで流れができる、と思っていました。とは言いつつ、この出演者を全員観たことある人なんてこの世にほとんどいないわけで、だからこそどうなるかわからんと言われることもありました。きっと出演者もお客さんも扇芝さんも全員そうだったと思います。でも全員のアクトを知っていてライブオファーをしているので、心の内で、「まあ見とけって」と思い続けていました。
逆に不安だったのが集客面。ほとんどの人にとっては見知らぬジャンルがあるわけで、だから知らないという不安があるかも、と思っていました。
だからある部分では確信があって、ある部分では不安しかなかったわけですが、蓋を開くとどちらも想像以上でした。ほんまに?って思うぐらいにお客さんが来てくれて、知らないジャンルのライブも観てくれていたんじゃないかな、と。
なおかつ出演者の方々も本当にありがたかった。客層が当日まで読めない中でオープンとクローズのDJをして場をつくってくれたあつきんさん、ラップのライブを初めて見る人もいるかも、とガイダンスして「知らない」を認め合う雰囲気をつくってくれたpLRayerさん、打って変わって言葉の強度や感情は引き継いで体温を下げていくという離れ業をした待子さん、そして大阪初ライブでいろんな顔を見せてくれたあと、名古屋に帰る終電まで(!!!)遊んでくれたししどさん
お客さん含めて全員が、僕の想像を超える空間を作り出してくれたと思っています。直接僕にその場で感想を言ってくれる方もいて、それ以上に物販で持ってきてもらったCDや詩集がいくらか売れているのを見て、やっぱりこのイベントを始める選択肢をとってよかったなと思いました。
パノラミとは何か
初回が終わり、既に来年1月24日の第2回に向かっているパノラミですが、今後もいいイベントを作っていきたいと思っています。もちろん主催としてできることは当日リハの時点でほとんど終わっているわけで、あとは出演者とお客さんが作り上げるものです。そうは言っても上につらつらと書いた内容の関係上、単に楽しいイベントってだけではないものを作っていきたいわけで、具体的に言うと、出会いと挑戦の場にしていきたいなと思っています。
出会いは、やっぱり新しいミックスジャンルライブイベントなので、それぞれの方が知らないジャンルやアーティストに出会ってほしいということ。あわよくば、パノラミでできた繋がりが新しいブッキングや作品に繋がったらさらに嬉しいなと考えています。
挑戦とは、まずは僕にとっての挑戦で、主催イベントという自分の城をどれだけいい場所にしていけるか、それこそ新しい何かと出会える場所にしていけるかということ。もう1つは出演者にとっての挑戦で、たとえば今まで10分20分ライブはしたことあるけれども30分はしたことがない人が30分に挑戦するということや、タイミングを見てにはなりますが、ライブ経験の浅い人やそもそもライブをしたことがない人にオープニングアクトとして10〜15分のライブをしてもらえるような、そういう挑戦の時間も作りたいと考えています。
もちろんですが、イベントの主役はお客さんなわけで、主催は裏方だと思っていますし、それは特別な場合じゃない限りは自分自身は出演しないという形で一部果たしていくつもりです。しかしその一方で、エゴの要素として、今のシーンに対して、hiphopとポエトリー両方のすみっこからアンサーを返していきたいと考えていますし、それが10年先に何かに繋がるんじゃないかなと思っています。最後どんな形になるかはわかりませんが、今後も新たなものが生まれる瞬間に出会いたい。よければみなさんと一緒に。