『しゃべるピアノ』
児童施設にある古いピアノは生きている。
鍵盤蓋をカタカタと鳴らして、今日も子供たちに語りかけていた。
「今日は何の歌が聞きたい?」
「森のくまさんがいい!」
「猫踏んじゃった!」
子供たちがリクエストをする。
「じゃあ今日は……」
ピアノは蓋を開けると、演奏を始めた。
ある日のことだった。
「先生、ピアノが口を聞いてくれないよ」と子供たちが言った。
「ピアノ、口の中を見せてごらん」
僕がそう言っても、ピアノは何も言わず、蓋を固く閉ざしたままだった。無理矢理こじ開けようともしてみたが、断固として開こうとしない。
「みんな心配しているよ」
そう言うと、ピアノはしぶしぶ蓋を開けた。
見ると一番端の白い拍子木が黒く汚れている。
その部分を軽く上げて側面を見ると、数匹のシロアリが木で出来た拍子木を食べ始めていた。
ピアノは泣きそうな声で言った。
「歯医者が怖くて……」
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