『株式会社リストラ』

　スーツ姿の男は礼儀正しく辞儀すると名刺を差し出した。
「『株式会社リストラ』。まさかうちの主人が？」
「いえ。リストラとは本来、企業が収入に合わせて組織を再構築し、出費の抑制を行うことです。弊社ではご家庭の収入に合わせた出費削減をご提案させていただいております」
「それは助かるわ。うちは毎月赤字で困っていたの」
「お任せ下さい。それでは家計簿のご確認から」
　男は家計簿を確認していく。

「……総合すると、最も効率的なのは、ご主人の『ご家庭からの整理解雇』でしょう」
「つまり離婚するのがいいってことね」
「しかし今度は収入が下回ってしまいます。そこで良い提案がございます」
　男は懐ふところから一枚の書類を取り出す。
「まさか主人を保険に入れろって言うんじゃないでしょうね？」
「そんな物騒な提案ではございません」
「じゃあ、どんな？」

「……僕はご主人より収入があります」
　男がそっと差し出した書類には『婚姻届』と記載されていた。