回想記01 #うしぼく通信vol.17
生まれてくるもの(アウトプット)も大事だけど、その過程にどんな問いとか気づきとか出会いがあったかとか、そんなことをもっと大切にしたいと、日々向き合ってるプロジェクトをいったん(納品とか)の区切りで、クウマメンバーや関わってくれたチームで振り返った記録。
わかりやすい形にならなかったって、ちゃんと血肉になっていることに気づけるって、じんわり幸せだと思う。
記事の合間に備忘録として、
▷ KEEP(実践してうまくいったこと・今後も続けたいこと)
▷ PROBLEM(問題だったこと・うまくいかなかったこと)
▷ TRY(次挑戦したいこと・解決したいこと)
▷ LEARN(学んだこと)
の視点で、抽象的な話と具体的な話をいったりきたりできるように、ナレッジやメソッドになりそうなものに名前をつけてみている。なにか触発されるものがあれば。
◎ プロジェクトの背景を、少し。
今回は「うしぼく通信」という、株式会社神戸牛牧場から定期発行している広報誌(コミュニケーションメディア)の編集・制作のプロジェクト。神戸牛牧場(以下、うしぼくさん)は、創業50年のタイミングである2019年にブランディングコンセプト「神戸から、牛とある暮らし。」を作らせてもらって、そこからずっとブランディングパートナーとして伴走させてもらっているクライアント。
2019年にリニューアル号としてVol.5を発行したうしぼく通信。今回制作したのは、Vol.17。今号のテーマは「牛と技術と継承と。」だった。うしぼくは直営の精肉店を3店舗経営しており、そのなかで働く肉切り職人の技術をどう継承していくかという議題があった。その一手をメディアを通じて一緒に代弁できないか、それが読者にとってのうしぼくの魅力を改めて知るきっかけを作ることがわたしたちクウマの役目。
150万人都市 神戸の郊外にある、うしぼく。郊外といっても、小さな街神戸では都心部から車を走らせて30分ほどの距離。ブランディングコンセプトを「神戸から、牛とある暮らし。」としたのも、牛たちの恩恵は食べることだけでなく、普段会うことはなかなかないけれど、実はそばにいる牛たちの恩恵をいろんな形で届ける神戸の企業として、これから50年、100年と続いていってほしいと思ったから。
そんなうしぼくから定期的に発行する広報誌(コミュニケーションメディア)は、食べる以外の牛たちのいろんな恩恵をたっぷり詰め込んだ内容にしている。牛という人間とかけ離れた存在と思えるものから、学べることは無数にあることを制作を通じていつも痛感させてもらっている。
余談だが、クウマの大切にしている価値観のひとつが「言語が異なるものと、学び続ける」ということ。だからこそ、広報誌を通して牛たちと何を届けられるかを考える機会があることを幸せに思う。
編集段階でチームで参考にした書籍のひとつ「著 外山 滋比古,『思考の整理学』,1986, (ちくま文庫)」のなかに、“同じものばかりを掛け算したらエラーが起こる、異なるものを掛け算して新しいものを生んでいく思想が大切“というようなことが書いてあったことにも、つながりを感じる。
前段が長くなってしまったが(初回の記事にありがち)、そんなうしぼく通信Vol.17の回想記に話を戻そう。
◎ この人の力になりたいっ、て思うはじまり。
どんな仕事も、そんなはじまりが多い。
というか、クウマの仕事は最終的にコミュニケーションメディア(WEBや紙などの媒体)を作ることが多いけど、結局一緒に代弁させてもらう仕事だと思う。
「一緒に」ってところが大事にしてるところで、クライアントと同じ場所から話すって感覚になるまで、相手の置かれてる状況とか、その背景に流れてきた時間とか、周りの生態系とかを探ることからはじまる。
ある程度、特集の方向性の目処がたったあと、リサーチのための現場観測として肉切り職人へインタビューをさせてもらった(2024年4月)。
2時間ほど話してすっと、「越境、偏愛、脱エゴ、時間に追われない」というキーワードが落ちてきた。取材中に見えてきたキーワードがとてもよくて、ぞくぞくしたのを覚えてる。
◎ 編集フェーズ。じわっとはいってくる抽象化の加減。
さぁー、ネタ揃ってきた。
ここからどう編んでいくか、のますます楽しい編集フェーズ。
技術継承というテーマは、どんな業種でも職種でも課題にあがる大切なもの。うしぼくさんと一緒にどんな提言ができるのか、楽しみであった。
リサーチのなかで読んだ書籍「著 茂山あきら、他 『継ぐこと・伝えること松本工房』,2014,京都芸術センター」 のなかにあった“継ぐことは、習ってなぞって、そして自分なりに形を変えて表現していくこと“という言葉があった。改めて、「柿本さん2号をつくることが大事じゃない」と信じることができ、変化を期待する土壌として何を伝えていけるのかをまとめることにエンジンがかかった。
インタビューで落ちてきていた4つのキーワードをライターさんにも聞いてもらい、違和感がないか相談しながら、削ぎおとしていく。
改めて固まってきたキーワードのコミュニケーション方法を考えていると、ウィトルウィウス的人体図(ダヴィンチ)が浮かんできた。
人間の普遍的なプロポーションをビジュアル化したもので、正しさと美しさが共存していることを示してくれているように感じた。
職人の技術の背景にある4つのキーワードが、複雑に関係しあって、結果的に職人という美しさを生む。そんな連想が、つながった。
◎ 奥様へのラブレター?にも発展。
そんなこんなで(制作工程結構はしょってすんません)、今号もすばらしいチームと、うしぼくさんチームと一緒に、うしぼく通信が完成しました(2024年8月)。しばらくデスク横の壁に貼って愛でている毎日ですが、完成してから生まれた、2つのエピソードを紹介したいと思う。
ひとつは、経営コンサルとしてうしぼくさんにはいってらっしゃる方から、社会ナレッジの言語化としてより活用していけないか、と議題があがっていること。改めてインナーブランディングツールとして整理されていくことになりそう。
そしてふたつめは、柿本さんが奥様にこの媒体を渡して感謝の気持ちを伝えた、と恥ずかしそうに話してくれたこと。
うしぼく通信vol.17のなかで、“いつも綺麗にアイロンがけされた制服で袖口の折り数まで決まっている柿本さんが、奥様があっての自分だと話されていたことから、見えない誰かを慮ることが職人の大切な姿勢のひとつ”という紹介をしている。
この通信を奥様に渡した柿本さんを想像すると、ぐっとくる。年を重ねたから渡せる、優しいラブレターみたいだ。
筆:KUUMA(クウマ) ハマベレミ
*今回紹介しているProject #うしぼく通信vol .17
https://kuuma.co.jp/works/ushiboku17