民法総合・事例演習について(京大ロー)

京大ローの民法総合の授業では、「民法総合・事例演習」という本を使用している。よく「司法試験よりもはるかに難しい」と言われているが、個人的には「司法試験の勉強ではやらないことも学ぶので難しく感じる」が正しいように思う。

この本の事例とそれに対するquestionは、第1部(民法総合1)では特に、要件事実の知識を確認するために作られており、民法の試験でよく問われる「論点」が出てくることは少ない。授業では、大半が条文の知識や要件事実が取り扱われ、論証集で覚えてきた知識はあまり出てこない。そのため、今まで勉強して慣れ親しんできた論点学習ではない学習内容を「難しく」感じるということだと思っている。この本が難しすぎるので、司法試験が簡単に感じる、というものではない。

要件事実はある程度覚えないとどうにもならない所があるので、これが定着していない状態で民法総合をやると混乱してしまうかもしれない。民法総合をやる前に、大島本(上巻(改訂後は要件事実編)あるいは基礎編)を読んで、要件事実のイロハは身につけておくとかなり楽になると思われる。

この本には、解説が付いていないので、学習には京大ローの先輩ノートが必須になることには注意。

司法試験の民法では、必ず「論点」が問われるし、要件も民法上の要件を全て指摘しなければならないので、必ずしも要件事実を意識しなければならないわけではない。では、条文知識・要件事実を学ぶ本書が全く役に立たないかというと、そうではなく、底力的な所では役に立ちうる。

以下、そのメリットを挙げる。
①条文知識をつけることの重要性
司法試験では、条文を探し出して指摘することができるかということもよく問われる。R6司法試験では、民法611条や607条の2が出ていたが、こういう条文は授業で扱う。授業は1から10まで真面目に聴いているわけではないものの、「こういう条文があったな」ということくらいはぼんやり頭に入っているのとそうでないのとでは、本番で条文を探すスピードがかなり違うと思われる(後者では下手をすると見つけられない可能性がある)。

②要件事実で考える訓練をすることの重要性
 要件事実の知識は、請求→抗弁→再抗弁→再々抗弁で何を主張すべきかを素早く組み立てることができる点で役に立つし、条文の理解につながる。もっとも、これが民法の試験に直接結びつくかといえばそうではないが、たとえば詐欺の事例では、「所有権に基づく返還請求」(請求)→「売買契約による所有権喪失」(抗弁)→「詐欺取消し」(再抗弁)→…という構造になっていることを理解しているのと、ただ「詐欺取消しをすれば返還請求できる」と理解している状態とでは解像度がかなり違うということであり、こういうところが底力の差として現れうる(点数の違いとして現れるかは不明ではあるものの)。
 要件事実の摘示では、実体法上の要件であるものの、要件事実では削ぎ落とされる要件がよくあるが、民法では削ぎ落とさずに全て指摘しなければ減点される。普段要件事実で考える人は、逆に、「全要件を検討する!」と意識して問題を解く訓練をしなければならない。
 要件事実の知識は、司法試験では、民法よりも民訴法で役に立つ場面が多いかもしれない。「主要事実」=「要件事実」であり、弁論主義などが出てくる問題では必ず要件事実を意識して解くことが有用だからである。そうすると、普段の民法学習でも、要件事実を意識しておくことには十分意味があるように思われる。

上記が本書を用いた授業に取り組んでメリットになる点である。条文知識の確認と要件事実での思考訓練という目的からすると、本書は暗記するほどにまで取り組むというより、復習はさっと目を通して「こういう条文が出ているな」くらいを覚えてくらいで済ませてもよいのではと個人的には考えている。

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