#270 家計調査に異常あり!?〜老後資金2,000万円問題の前提数値に大きな変化〜
2020年はさまざまな変化がありました。家計もその1つでしょう。
総務省が毎年(毎月もありますが)出している家計調査を見てやはり大きな変化があったのでメモ。
1、消費が減り、実収入が増えた。
2020年家計調査の特徴を一言で表すと以下の通りです。
(二人以上の世帯)
☑️ 消費支出が5.3%減少
☑️ 実収入が4.0%増加
☑️ 可処分所得は4.6%増加
消費のうち大きく減ったのは、旅行費用などを含む「教養娯楽」。移動自粛による「交通・通信」。わずかですが増えた項目は給付金で購入が増えた「家具・家事用品」、在宅で増えた「光熱・水道」です(以下)。
結果、二人以上の世帯のうち勤労者世帯の家計収支は以下の通り。
比較のために、2019年の同じデータを載せておきます。
2、老後資金2,000万円問題の前提数値?
大きな話題となった金融庁ワーキンググループによる報告書ですが、1人歩きした数字が「老後資金2,000万円」というものです。
その算出根拠ですが、以下の表なのです。
ちょっと見にくくで申し訳ありませんが、実支出から実収入を引くと毎月約5万円の赤字になっています。そこから以下のように2,000万円を算出していました。
「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20〜30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円〜2,000万円になる。」
先ほどご紹介したデータは65歳以上の夫婦のみ無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支のデータなのですが、「約5万円の赤字」は2020年にはどう変化したでしょう?(下図)
なんと、1,111円とわずかですが黒字になっています。
2019年と比較すると、
☑️ 社会給付等(公的年金等です)が3,016円増(1.4%増)
☑️ その他が15,935円増(76.8%増)
☑️ 消費支出が15,557円減(6.5%減)
によって、収支がプラスに転じたのです。
これは、給付金等の臨時収入によるものですので継続性はありませんが、「老後資金2,000万円」の元となった数字に大きな変化があった、と言えます。
3、まとめ(所感)
いかがでしたでしょうか?
なんだ、結局2020年限りのことか、と思われたかもしれません。
全くその通りですが、この家計調査を見るたびに思うことがあります。
この数字は、実際の数字です。もちろん統計的に処理された平均値ではありますが。ちょっと想像してみてください。何十年も働いてきて、やっと時間ができ、さてこれから、というライフステージです。
やりたいことをやり切って、この支出なのでしょうか?
お金をかければいい、ということではないのはその通りなのですが、毎月リアルに赤字、という現実は、やりたいことをセーブして、なんとか赤字を少なくしようとして、それでも赤字が出てしまっている、ということが実態に近いのではないでしょうか?
金融庁のレポートはその観点が抜け落ちています。
もし、あと5万円、毎月の収入が多かったら、もっとやりたいことをやって、結果支出が増え、赤字は増えるのではないでしょうか?
単に、今の赤字を埋めるだけに必要な貯蓄を用意しましょう、では「本当に必要な金額」は算出できないのではないでしょうか?
そしてもう1つ。
寿命は誰にもわからない、という観点も抜けています。
何歳で亡くなる、というのが分かっていれば、そこまでの残り期間を計算して貯蓄を使い切ることもできるでしょう。
でも分からないのです。誰にも。
65歳に2,000万円あったとして、毎月5万円づつ取り崩す生活で、残り500万円になった時、同じペースで取り崩すことができるでしょうか?
「2,000万円」、という数字が騒がれたことで、自助努力の意識が高まった効果はありました。でも、そのセンセーショナルな数字だけが強調され、出典元やその元となった家計調査まで確認してくれた報道はほぼ見えなかったのではないでしょうか?そして、そこまで確認してみた方はどれくらいいたでしょうか?
関係ないことなら問題ないでしょう。でも、ほぼ全員が関係する話です。
しかも、いざその時なって気がついてももう打てる手はほぼないのです。
余計なお節介、とは思いますが、今回このnoteをご覧いただいたのも何かのご縁です。実際にその報告書の中身、そしてデータの出典元の家計調査、を見ていただきました。ご自身に当てはめて考えていただく機会になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
文中でもリンク貼っていますが、以下が出典元になります。ご参考まで。
☑️ 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書
「高齢社会における資産形成・管理」