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遥かなわたしたち
※こちらはWEBマガジン「She is」公募用に書いた小説です。テーマは「モテってなんだ?」。投稿は12回目。遂にひとまわり。
日曜日、実家の自分の部屋を整理していたら、学生時代のものがいろいろ見つかった。修学旅行のしおり、使っていたノート、返しそびれた本。もちろんその他もいっぱい。
その中に、1枚の手紙があった。
晴子はぺたんと床に座り封を開ける。
「佐竹先輩へ 」
そこから始まる文は、2年後輩の女の子が書いたものだった。久しぶりに、高校時代の自分がぽわぽわと浮かんできた。
髪が短く、背が高く、ボーイッシュな雰囲気。はっきりした目鼻立ち。
よく年下の子から黄色い声援を浴びたっけ。
彼女が再び手紙に視線を戻すと、こんな箇所があった。
「佐竹先輩と八木沼先輩、とってもお似合いですよね」
ヤギヌマ。やぎぬまかなこ。ふわりと揺れ、制服の肩に滑り落ちた叶子の長い、髪。
八木沼叶子はクラスメイトだった。同じグループにいて、たいていいつも一緒にいた。小柄で可愛らしく、外面はたいへんに可憐だった叶子と、颯爽としていた晴子の組み合わせは、下級生が持つあこがれに相応しかったらしい。女子校にはそんな需要があったのだ。宝塚のペアが求められているような感じで。
それを察知したふたりは、仲睦まじく振る舞った。思わせぶりにささやく。手を繋いで帰る。ジュースを回し飲む。はしゃぎ、笑い、調子はずれの歌をハモる。
それが衆目を集めると知っているから、演じた。もちろん仲は本当に良かったけれど、少々過剰にふるまっていた。
手紙を元通りにして、息をひとつ吐く。
立てかけた姿見の前には、部屋着の平凡な20代の女が写っている。
あの頃とは違う自分。髪も少し伸びた。化粧だってする。来年には結婚だって。
晴子は考える。今のこの姿を見たら、この手紙の主はがっかりするだろうかと。
ずいぶん遠くまで来てしまった。人気者だった過去から。閉じた空間で求められて、消費されて。
その記憶は、甘くもなく、苦くもない。自信がついた訳でもない。ただ、楽しく、こそばゆく、たまに面倒になったりもした。
叶子には何が残っただろう。今度聞いてみようか。あの頃のこと、覚えてる?と。
いろんな人に愛された、今はもうない、遥かな時間のことを。
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