手段としての手技を活かす
「もう骨と皮だけになってしまいました。筋肉なんて残っていない感じです」
大病をされ、すっかりやせ細ってしまった女性が、ガッカリした様子でお話しされました。
主訴は全身の疲労感、体力がなくなって虚弱な状態になっている印象です。
そのような場合、通常は包むように保護しながらおだやかに刺激を加え、
制限されている部位を溶かすようなイメージ(あくまでイメージ)で押さえたり伸ばしたり操作する。
いわゆる苦悶式とは真逆の方法をとっていきます。
けれども今回は筋緊張を確認した各部位で、あえてピリッとした刺激も加えました。
もちろん加減をしながら。
「イタッ💦」
ここの筋肉がコッています。
「アイタッ💦」
こっちの筋肉もコッています。
「あっちこっちコッているんですね」
そうですよ。こんなにしっかりしたコリができるくらい、立派な筋肉があるわけですから心配いりません。
「ちゃんと筋肉あるんですか?」
そりゃそうですよ。ないと治療院まで歩いて来れませんから。
このコリなんて、身が締まっていておいしそうじゃないですか。
「アイタッ💦 ハハッ、そうですかぁ?」
ようやく笑われました。
コリというのは、ふつう歓迎されないもの。
けれども今回は、筋肉があるという認識を持たせる手がかりとしてコリを利用しました。
言葉で慰めるだけでは伝わらなくても、実感を持たせることで納得させやすくなる場合があります。
患者の持つセルフイメージを、変化させるための手段として感覚を利用する。
その目的は患者を「安心」させるため。
時に愁訴に対する直接的な働きかけよりも、重要になる段階・場合があるように思います。
手技療法は手段のひとつにしかすぎません。
けれども手段だからこそ、工夫次第でいろいろ活用できます。
これも治療家としての腕の見せどころでしょう。
初診から2週間あまり過ぎ、再びいらっしゃった時の訴えは
「肩が凝っている気がします」
より具体的になってきました。
まずは一歩前進です。