スポーツの痛みがスポーツによるものとは限らないということ
「練習の後に左踵からふくらはぎが痛み、最近は右側も痛くなってきました💦」
1か月半ほど続く痛みの相談で、大学野球の選手が来院されました。
これまでではじめての経験だそうで、症状は移動するそうです。
組織の損傷が起こっているなら、それが移動することはあまりありません。
身体を少し拝見すると、両側ともお尻から太ももの外側とふくらはぎに緊張はみられるものの、練習のやり過ぎでみられるような下肢全体が張っているような状態はみられませんでした。
長く野球を続けてきて新たな問題が出てきたら、野球以外の理由も考えた方がよいでしょう。
いろいろ話を伺うと、昨年末からスーパーで夜間のレジのバイトを始めたとのこと。
「レジでの動きを試しにやってみてもらえますか?」
と言うと、なぜそんなことを?という様子で少し戸惑っていましたが、そうして横移動の動きが多いことを確認していただきます。
シフトは週4回ほどで4時間、夜間のために客も少なく、立ちっぱなしの時間も多いとのこと。
床も硬くて足が疲れるとはいえ、注意されるので座れないそうです。
施術をしながら、バイトの負担が上乗せになることで症状が出たかもしれないことを伝えました。
昨年末から始めて痛み出したのが3か月後となると、疲れもたまってくるタイミングです。
野球で痛むのに野球以外の理由であることが最初は不思議だったようですが、下肢の緊張状態、痛みのパターン、生活環境を踏まえてお話しすると、次第と納得されるように。
手技で緊張を和らげた後にセルフケアを伝え、
「お店にダンボールは山ほどあると思うけれど、足の下に敷いておくことはできる?」と聞きました。
ケアをしながら生活の中でいかに負荷を減らすかという工夫は大切なので、このようなアドバイスは必要ですが、身近なものを使ってすぐに実行可能ということがポイントです。
手間がかかるほど実行されないですから。
そのためには、私たちが生活をするなかで自分の周囲をよく観察しておくことが望まれます。
そうでないと、ちょっとした発想は生まれにくいでしょう。
スポーツによる痛みはそこに原因を求めがちですが、スポーツ以外に理由があるのは珍しいことではありません。
心理社会的要因を含め、選手と長く接しているコーチやトレーナーはそのことを肌感覚で理解している一方で、お店を構えて来院した方からのみ相談を受ける私のような治療家は、意外と見落としやすいかもしれないと感じています。
だから私たちも日ごろからコーチなどと交流して、とくに何気なく話されていることをよく聞いておく必要があるでしょう。
専門分野はもちろんですが、自分の生活をよく見つめ、味わって体験することが人をみる上で何よりの勉強になる。
経験を重ねるほどそのように思います。