永久の休日


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 永久は眼を覚ました。

 そしてそこが自分のベッドでないことに気付いた。自宅の玄関だ。体が鉛のように重い。ぐったりとのしかかってくるような疲労感だった。

「ああ……そうだ。寝ちゃってたんだ」

 夜勤明けに帰宅と同時に玄関に倒れ込み、大きく息を吐いて「疲れた……」と呟いたところまでは覚えている。

 そのまま少しだけ休んで、溜まった洗濯物を片付けて、食器を洗って、何か食べたらやっとベッドで眠れる……明日は休日……
 そのうちに永久は気絶するように眠ってしまったのだ。

 垂れた涎が乾き、頬がべりっと床から剥がれた。

(おなか減った……でも動く気になれない……)

 再びこのまま寝てしまいそうだった。前ならくたくたになって帰ったときは、常盤花切が抱き上げてベッドまで運んでくれた。
 だが花切はもういない。

 永久は少し泣きそうになった。涙をこらえどうにか立ち上がる気力を振り絞ろうとしたとき、ふと思い出してビジネスバッグを手に取った。

 中から紙袋を取り出す。昴と日与からもらったものだ。

 包みを開けると丁寧に包まれたチョコレートが入っていた。永久は笑ってしまった。それはニワトリの形をしたチョコレートだった。

 チョコレートをかじった。甘みと香りが口の中に広がり、ナッツ類が弾けた。疲労で石のように硬くなった胃に染みたが、多少元気が沸いて出るのを感じた。

 永久の一部、花切を失った部分は永遠に元に戻ることはないだろうが、別の何かがそこを埋めてくれた気がした。

(がんばらなきゃ。あの二人だってがんばってる)

 永久は立ち上がり、溜まっている家事を片付けた。

 風呂に入り、手をかけて作った食事を摂り、それから十二時間以上も眠った。

 翌朝、自宅を出るときはいつもの永久に戻っていた。美しく凛とした、天外市警刑事の佐池永久に。

 永久は玄関に置いた花切の写真に微笑みかけた。

「行ってきます、花切さん」


(永久の休日 終わり)


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