[日記]トルコに着いたよ
入国審査というのは、緊張の一瞬だ。
まず言語がままならない上に、相手はこちらを少なからず疑ってかかってくるからである。
そう思うにもかかわらず、私はsightseeingと滞在日数の予習しかしなかったのだからもうどうしようもない。
さあ行かねば、と意気込んでパスポートを差し出したにもかかわらず
一言もしゃべらずにスタンプを押された。
え、私帰国者用のところとかに並んでしまった?
いやパスポートを見れば分かる。日本人だと。
あまりにあっさり無愛想に終わった入国審査に一抹の不安を抱えながら出口へ向かう。
ツアーの人達が分かるように看板を持ったガイドさんたちが一様に並んでいた。
自分の参加するツアーを見つけて、集まっている人達の輪に入る。
参加者の女の人たちが声をかけてくれた。ちょうど母と同じくらいの歳の人達でなんだかほっとする。
私は尋ねてみる。
「入国審査、一言も話さずに終わったんですけど…」
「ああ、私たちもよ〜」
そうなの。
「日本人への信頼なのかしらねー」
凄いな曰本。
そうこうしていると、参加者は全員集まった。両替を済ませてバスへ向かう。
今日はイスタンブールの中のブルーモスクやトプカプ宮殿、バザールへ行くというスケジュールだ。
私はさっぱり分かっていなかったけれど、あとから考えると、これはとてもぎゅうぎゅうに詰め込んであった。
だってどこも大きくて、広すぎて、見どころがありすぎるのである。
ブルーモスクは修復中だったけど、ドーム以外にもモザイクタイルは素晴らしく、
トプカプ宮殿も目玉の宝物はなかったり、ガイドさんいわく1番見るべき場所らしい部分は修復中だったけど、スルタンが眺めたであろう海や庭園、異国情緒溢れる建物は壮観だった。
バザールに至っては、集合時間に間に合わないのが怖いほど広く入り組んでいて、あまりウロウロできなかった。
代わりに、ザクロをその場で搾ってくれるフレッシュジュースや、焼き栗の屋台を楽しんでみた。
バザールは、店内に入って買い物する、というよりも、露店のように通りに品物を並べてある店の方が多い。店員も店先に立っている。
そして通りすがりに見ているだけでかなり声をかけられる。
ピアスを見ていた時だった。後ろから突然、
「わっ!」
と驚かされた。ビックリして飛び上がった私に向こうも驚いて笑っていた。
ここの店員さんか、と思った私は、これはいくら?と聞いてみた。
が、お兄さんはnice price!と笑うばかりである。
Japanese?と声をかけられ、そうそう!と嬉しくなる。
すると彼は、ところどころTとKを間違えながら
おーきなくりのーきのしたでー
と一節歌ってくれた。
私はあまりに嬉しくて、間違いすら可愛らしくて大笑いしてしまった。
ワンモア!とお願いすると、彼は恥ずかしくなったのか、
いーとーまきまき いーとーまきまきー
と歌ってくれた。今度は私も一緒に歌った。
ひーいて ひーいて とんとんとん
手振りもつけてやってみた。お兄さんも一緒にやった。
やっぱりTとKがごっちゃになっていた。トルコの発音の関係かなあと素人考えに思った。
すると彼は近くにいた別の店員を指さし、あの人は僕の兄弟なんだ、といった。
あ、そうなのねー!と笑った私に、それじゃあね、センキュー、良い旅を!的なことを言って彼は去っていった。
ここで初めて私は彼がこの店の店員でないことを知った。
え、すりとか?と慌ててリュックを確かめるが別に異常はなかった。普通に気のいい日本好きのお兄さんだった。
外国において、向こうから気軽に声をかけてくるのは、あなたの財布に用があるから
なんていう話をどこかで聞いたけれど、疑いすぎるのも考えものだなあと思った。
ツアーではあるけれど、自由時間に、外国を女ひとりで歩くわけだから、用心はして当然と言えばそうだ。
でも彼をスリと疑ってしまったのは、申し訳なかったと思う。
異国という慣れない場所でも、お客さんとして行っている国でも、やっぱりその手のバランスは難しい。