バイオハザードヴィレッジは如何にして恐怖と面白さを両立したのかを解説する【BIOHAZARD VILLAGE】
『バイオハザード』
それは、CAPCOMが発売している超有名ゲームシリーズのタイトルだ。
ゲームはスピンオフ含め多数発売されており、映画や小説やアニメーション作品など、他のカルチャーに対しても手広く展開している、正にCAPCOMが誇る一大コンテンツとも言えるだろう。
知名度の高さで言えば、かの傑作「スーパーマリオ」に対しても引けを取らない存在だともいえる。
その「バイオハザード」の、ナンバリング最新作が先日発売された。
「バイオハザード ヴィレッジ」である。
正直な話、私は本作を買うつもりは無かった。
純粋なホラーゲームが苦手だった私には、前作があまりにも怖すぎたからだ。(実際公式が発表している前作を購入しなかった理由の一位に「怖すぎるから」がランクインしている)
しかし、結果として私はゲームを購入し、クリアして、なおかつこのように記事まで書いている。
これもひとえに、本作が「怖いのに面白い」という点に対して非常にバランスの取れた造りになっていたからだ。
本作の恐怖と楽しさのバランスを一言で表すと「神がかり的」だと言える。
バイオハザードというシリーズにおける軸であるホラーとアクション、そのどちらにも傾き過ぎない、まさに綱渡りのような調整がされた傑作であると私は感じた。
ということで、今回のnoteでは「バイオハザード ヴィレッジ」は、如何にして「恐怖と面白さ」のバランスを調整し、「サバイバルホラーアクション」というジャンルの傑作となりえたのか?について解説していく。
ホラーとシューティングを両立させた戦闘バランス
本作の戦闘はかなり上手い作りになっている。
基本的には前作と同じだが、シューティングゲームとしてもかなり面白い仕上がりになっており、なおかつ恐怖を感じさせる要素もしっかりと残っている。
ではどのような点が優れているのか?
まず第一に弾薬が不足しがちな点が挙げられるだろう。
これはホラーゲームではよく見られる手法であり、敵に抵抗する手段である弾薬を大切に使うことを無意識のうちにプレイヤーに強いることで、プレイに緊迫感が発生する。実際プレイ中に弾薬が尽きかけてピンチになったことが多々あった。恐ろしい敵に囲まれたときに弾薬が尽きた際の絶望感たるや…言葉では言い表せない。
しかし、ここで今作の要素であるクラフトが上手く作用する。
クラフトは時間を停止して行える要素であり、弾薬や爆弾を作成できる。
そのため、数値上では弾薬が無いように見えても、実のところはある程度余裕のある戦闘となっているのだ。しかし、無尽蔵に弾薬を作り出せるほどの素材が集まることは無く、どの資材をどのアイテムに変換するか…と考えるのもこの作品の面白い部分である。
第二の理由として、敵の足の遅さと耐久力が高い点もあげられる。
足は遅いが耐久力がある恐ろしい見た目の敵が、弱点である頭の位置を変えながらゆっくりと近づいてくるのは非常に恐ろしいものである。
プレイヤーは敵の頭を狙い弾丸を何発も叩き込むが、耐久力のせいで全く倒れない。その間にも別の敵がジリジリと詰め寄ってきており、そちらにも攻撃を行わなければならない…という、ホラー映画の登場人物のような戦いを常に強いられることになる。
しかし、頭を狙って撃てば大体の敵はひるんでくれるため、次の敵に対処する時間が生まれる。また、頭を撃って敵を倒したときの破裂音も爽快感のあるSEとなっており、敵を倒した際の快感を底上げしてくれている。つまり、慣れてくればシューティングとして面白いゲームとなるのだ。
弾薬という少ないリソースを管理しながら、敵に優先度をつけて頭を撃ち、攻撃を受けないようにしながら対処していく…。
このシビアな戦闘のバランスがホラーとシューティングを両立させている。
バイオハザード8は、ナンバリングの1,2,3におけるシビアな弾薬管理と4,5,6における戦闘の楽しさ、そして7におけるジリジリと詰め寄られるような恐怖を上手く融合させたのだ。
イーサンという(ほぼ)不死身の主人公
今作では前作に引き続き、イーサン・ウィンターズが主人公だ。
しかし、前作と圧倒的に違う点がある。
それは、「イーサンが主人公になるのは2回目」という点だ。
何当たり前のこと言ってるんだコイツは…と思ったかもしれないが、少し話を聞いてほしい。
無名の俳優が主人公のホラー映画と、アーノルド・シュワルツェネッガーが主人公のホラー映画の2作が存在したとして、どちらが怖そうに見えるか?と聞かれたら、どう答えるだろうか。
私なら、シュワちゃんが主人公のほうが怖くないだろう…と考える。
その映画に関係なく、「他の作品で強かったから、あの人なら怖くないだろう。」という考えが、間違いなく存在する。
「人間は未知に恐怖する」とはよく言ったものだ。
話を元に戻そう。
7の時点では、イーサンは初登場の一般人だった。プレイヤーも彼に対しての知識を持っておらず、どのような人物なのか?という点から知らなければならなかった。もし7の主人公がレオンやクリスなら、怖さはかなり軽減されていただろう。(間違いなくゲームシステムも変わるが…)
しかし、8の時点で私たちはイーサンという人物についてある程度の知識を持っている。
イーサンはただの一般人ではないことも、あのベイカー邸を生き残ったことも、治癒能力が桁外れなことも、どれだけ酷い目に合っても「マジかよ!」で済ませる強靭なメンタルを持っていることも、すでに知っているのだ。
これにより、「イーサンが主人公」という点に対して安心感を覚え、ゲームに対しての恐怖心が少なくなることに繋がるのである。
また、先述した通り、イーサンは一般人でありながら前作の時点で非常に高い治癒能力を維持しており、「取れた腕や足をくっつける」という人外技をやってのけているため、本作をプレイしている際にイーサンが酷いダメージを受けたとしても、「まあイーサンだし大丈夫か…」と思いながらプレイできていたのも、怖さの低減に一役買っていたように感じた。
ホラーゲームが苦手な人へのアプローチが上手い
まずはこの動画を見てほしい。
狂ったファンメイド作品かと思ったら、全て公式が出している。
公式が一番狂ってるよ…
個人的な感想はさておき、これらは実はかなり上手いマーケティングとなっている。私が購入を決めたのもこれらの動画を見た流れでプレイ動画を見たからだ。
これらの動画の凄いところとして、第一に意外性が挙げられるだろう。
あの「バイオ」の公式が、何やら面白い動画を上げている…という情報は、このインターネット社会では非常に拡散されやすい題材である。実際私のTwitterのタイムラインでも目にすることが多々あった。
そして、拡散されれば、それだけ多くの人の目に留まる。
中には前作の怖さに挫折し、今作の情報を仕入れなかった人もいるだろう(私がそのタイプ)。そもそもバイオに興味がなかった人もいるかもしれない。
これらの狂った動画は、本作に興味がそれ程無かった層をターゲットとすることに成功しているのだ。
また、人形劇場で一貫して行われている「今回のバイオは怖くない」という宣伝も上手い。
前作が怖くて進めなかった人も、今作ならできるかも…と思わせてプレイさせることができるし、実際に怖かったとしても「やっぱり怖いじゃん!!」という部分でツッコミを入れることができるので、どちらに転んでもOKな宣伝なのだ。(そもそもバイオが怖くないなんてことは無い)
宣伝手法として、非常によくできたマーケティングだと感じた。
ホラーゲームとしての威厳を保ったステージもある
ここまでホラー要素がある程度緩和された…というような説明をしてきたが、本作は怖くないわけではない。むしろある部分においては歴代のナンバリング作品でもずば抜けて怖い所も存在している。そのステージが怖すぎて一度ゲームを中断しようかと考えたほどだ。
ここで話題に上げているステージは、おおよそ中盤ごろに訪れる場所となっている。
長い探索を経て敵に対してある程度耐性が付き始め、恐怖心が薄らいできたころに、突如ガチガチのホラーステージをプレイさせられるのである。
慣れてきたころに挟まれるCAPCOMの本気を出した恐怖により、プレイしているプレイヤーの心に緩急が付き、改めて新鮮な気持ちでゲームをプレイすることができるようなステージ設計になっているのだ。
そのステージはそこまで長いわけではないのが上手いところだ。
長いと怖すぎてリタイアしてしまうプレイヤーが出てくるだろうし、個人的には丁度いいステージだと感じた。
今回は記事の趣旨とは外れるので書かなかったが、本作にはプレイヤーを飽きさせない工夫がいくつもされている。先述したステージもその一環だ。
工夫について軽く触れると、「各ステージの平均プレイ時間は約2時間ほどになる、つまり2時間ごとにまったく新しい体験をすることができる」「本編とは関係のない探索要素があり、それによりアップグレードなどを手に入れることができる」などなど、プレイヤーが飽きないように随所に工夫が凝らされていることが分かる。
まとめ
バイオハザード最新作である「バイオハザード ヴィレッジ」は、恐怖と面白さを絶妙なバランスで組み合わせたサバイバルホラーの傑作であり、その裏側には戦闘バランスから主人公のバックストーリーや前作を踏まえたマーケティング、さらにはマップデザインに至るまで、あらゆる面で調整を重ねていったというCAPCOMの並々ならぬ努力が存在していると感じた。
しかし、ただゲームとして面白いだけではなく、ある場所では歴代最恐の演出が挟まれるなど、ホラーゲームとしても一級品だということを世界に示した。
まさにサバイバルホラーの原点である「バイオハザード」の最新作として相応しいゲームだった。