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【創薬モダリティ紹介 vol.1】 Antibody-Drug Conjugates(ADC)

こんにちは。くすりのみーたです。
今回は創薬モダリティの一つ「Antibody-Drug Conjugate (ADC)」をご紹介します。専門でない方も、通勤時間などにサクッと楽しんでいってください。


ADCとは?


ADCの模式図。抗体(紫)と薬物(オレンジ)が、リンカーを介して繋がっている。
参考文献1からの図の引用。

ADC(抗体薬物複合体、Antibody-Drug Conjugates)は、「抗体・薬物・複合体」の名の通り、抗体と薬物を繋ぎ合わせたものです。抗体は、特定のターゲットに強くくっつく特徴を持ちます。薬物は、病気の原因物質に作用します。

がんは、おかしくなった細胞が異常に増殖することで起きる病気です。がんの薬は、このような異常ながん細胞が増えるのを抑える効果があります。しかし、薬物は、がん細胞以外にも作用してしまいます。薬物が正常な細胞まで壊してしまい、副作用が起こってしまいます。

一方、抗体は、似たような形のものも区別し、特定のターゲットにのみ強くくっつきます。抗体と薬物を繋ぎ合わせることで、がん細胞にのみ薬物を運び、副作用を抑えつつ治療の効果を上げることができるのです。

一度がん細胞に効けば、周りのがん細胞にも作用できる(Bystander effect)。
参考文献2からの図の引用。

薬をがん細胞に運んだ後は、抗体は薬の効果の邪魔になってしまいます。細胞内で抗体が化合物から離れてくれたり、分解されるよう設計する必要があります。

どんな薬が出来るの?


ADCは主に抗がん剤として開発されています。単一の抗体(モノクローナル抗体)で出来た薬には、Monoclonal Antibodyの略である 「マブ(mab)」という接尾語がついています。ADCでは、その後ろに薬物の名前がついています。

ADC開発の流れ


1. 標的と抗原の選定

がん細胞など、特定の病変細胞に多く現れる抗原を選定します。

2. 抗体の開発

選定した抗原に強く結合する抗体を作成・精製します。

3. 薬物の選定

強力な抗がん剤など、効果的な治療薬を選定します。

4. リンカーの設計

抗体と薬物を結合するためのリンカー(連結子)を設計します。このリンカーは、標的となる細胞に到達した後に薬物を放出する特性を持つ必要があります。

5. ADCの合成

抗体、リンカー、薬物を結合させてADCを合成します。

分子が大きい分、コストや経口投与の難しさが課題となっています。

日本の製薬会社での活用


日本の製薬会社もADCの開発に積極的に取り組んでいます。現在承認されているものは、主にPfizer社のグループとなったSeagen社との共同開発です。

武田薬品

武田薬品さんは、Seagen社と共同でBrentuximab vedotin (商品名:アドセトリス)を開発しました。米国で2011年に承認されています。

第一三共

第一三共さんでは、Trastuzumab deruxtecan (商品名:エンハーツ)が有名ですね。

アステラス製薬

アステラス製薬さんでも、Seagen社と共同でEnfortumab vedotin (商品名:Padcev)が開発されており、適用が拡大しています。

エーザイ

エーザイさんでは、Bristol Myers Squibbと共同開発したADCがPⅡまで来ています。(最近、共同研究は終了したようです。)
BlissBio社とも共同研究が行われています。

中外製薬

中外製薬さんでは、ポラツズマブ ベドチン(商品名:ポライビー)が承認されています。

参考文献、Webサイト


  1. Sasso, Janet M., Rumiana Tenchov, Robert Bird, Kavita A. Iyer, Krittika Ralhan, Yacidzohara Rodriguez, and Qiongqiong Angela Zhou. 2023. “The Evolving Landscape of Antibody-Drug Conjugates: In Depth Analysis of Recent Research Progress.” Bioconjugate Chemistry 34 (11): 1951–2000.

  2. Dumontet, Charles, Janice M. Reichert, Peter D. Senter, John M. Lambert, and Alain Beck. 2023. “Antibody-Drug Conjugates Come of Age in Oncology.” Nature Reviews. Drug Discovery 22 (8): 641–61.

  3. Takashi Nakada,* Kiyoshi Sugihara, Takahiro Jikoh, Yuki Abe, and Toshinori Agatsuma. 2019. “The Latest Research and Development into the Antibody–Drug Conjugate, [fam-] Trastuzumab Deruxtecan (DS-8201a), for HER2 Cancer Therapy.” Chem. Pharm. Bull. 67 (2019): 173–85.

  4. 和島英樹. "抗がん剤として存在感が増す「ADC(抗体薬物複合体)」 関連銘柄!". カブヨム. 2023-11-29. https://kabu.com/kabuyomu/money/944.html, (2023-6-30).


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次回もお楽しみに!


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