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どうする、ニッポン

2.1.5 タテ社会の停滞-平成から令和へ

 日本の社会が高度成長期を経て、今でも技術的には世界の最先端を行っているのは違いないようです。しかし、行政のデジタル化の分野で後れを取っていますから、社会のデジタル化を進めなければならない、という掛け声が大きくなってきました。次の一歩を進めなければなりませんが、課題は業務のデジタル化だけではなく、社会運営や組織経営にあります。課題を分析するヒントは、何が日本を先進国に押し上げてきたかを振り返ることから始まります。

日本を先進国に押し上げた原動力は、高度成長をもたらした製造業です。製鉄、家電、自動車などの製造業の「モノつくり」の技術です。“Made in Japan”は世界中の消費者が手にして、使ってみて、乗ってみて、便利だ、気持ちいい、おいしいと感じて“日本製品大好き”が世界の隅々までいきわたりました。しかし、「モノつくり」の技術はすぐに模倣されました。もう一つの原動力は、上下関係に基づくどう喝を基本とした組織の運営です。日本型の組織運営は、組織を統括する非常によくできたシステムです。しかし、組織の構成員はみんな対等という理念に基づいた、契約の概念を基本とする組織運営は育ちませんでした。多くの後続国が日本の「モノつくり」の技術を習得したにもかかわらず、日本型の経営・運営を模倣する国がないのは、彼らが“力”による組織の運営手法に学ぶものがないと感じているからです。

日本の社会をみますと、大きな組織と小さな組織が上下関係で結ばれています。組織内では年功序列、組織と組織では力関係。どちらも対等の関係を理解することはむつかしいようです。交渉は対等の関係を理解してはじめて成立しますので、対等の話し合いができないことには交渉は成り立ちません。上下関係や力関係で話をするのはパワハラになりますし、どう喝になります。そこには組織を運営する技術の基礎となっている対等の関係がありません。多くの日本の組織が、私たちの「資格」よりも「場」を優先する“縦割り”の社会になっていますので、組織の「場」と「場」の間には隙間が生じます。隙間を埋めるために新しい組織を立ち上げますが、新しい「場」と元より存在する「場」の間に、また隙間ができます。新しい隙間の間にまた隙間ができます。隙間を埋めるために、また新しい組織が必要になります。“縦割り”の社会は次から次へと膨らんでいきます。「タテ社会」の“縦割り”は蛸壺(たこつぼ)のようなもので、中にいると外のことは気にしなくていいので非常に気持ちが良くて、外に出る気が起きません。蛸壺と蛸壺の間の隙間を埋めるために、新しい蛸壺を準備することになりますから、次から次へと蛸壺が増えていきます。「タテ社会」の“縦割り”は「場」の機能を優先する官僚組織に顕著です。蛸壺型の官僚組織は「タテ社会」の見本であり、似たような状況はどの組織にも見られます。

現代の社会生活は、グループを組織して団体で活動することが基本になっています。たとえば、日本の社会は、参議院議員と衆議院議員を合わせた国会議員からなる国会を頂点として、総理大臣を中心とする政府の組織、行政の実務を担当する省庁をはじめとする公務員の組織、司法をつかさどる裁判所の組織と弁護士団体、学校や病院の組織、会社組織、いろいろな分野の芸術家の団体などから成り立っています。団体や組織は成り立ちや歴史が違いますから、当然のことながらそれぞれに固有の組織文化があります。私たちはいずれかの組織に所属して生活の場としていますから、私たちの日々の生活は所属組織が持っている固有の文化と共にあります。各組織はそれぞれの文化に沿った形で営まれていますから、私たちの生活は同じ文化を共有している「場」の中にあるといえます。私たちが所属する「場」の中には所属者の序列があります。国会では与党も野党も、当選回数による序列。政府内では、首相をはじめ財務や外務などの重要閣僚と、政府の一員として閣議に参加する一般閣僚。省庁においては予算配分の実権を握る財務省と国民生活に関わる予算の執行に直接関与する重要省庁とその他の一般の省庁。司法は、最高裁判所を頂点とする裁判制度などです。

産業界においてはそれぞれの業界内での序列と社内における社長をトップとする序列です。組織内の序列は所属者の国籍、年齢、性別、資格などの属性が重要となっています。会議において、序列に従うことは所属者の当然の義務と捉えられています。団体に所属している者の間には必ず序列がありますから、各団体は私たちが所属する団体内の序列を基に運営されています。重要なことは序列があって初めて対等という考え方の実践です。序列を上下関係と捉えて、上位者の“権威”を既得権の“力”として振舞うことに課題があります。

戦後社会の運営でも、伝統的な手法が変わることはありませんでした。統制が取れた日本社会の運営は、復興に大いに役立ちました。会社組織は基本的に人事にも組合活動にも同じ手法を適用して運営してきました。連合国の進駐軍が日本の社会を直接運営する必要はなかったのです。戦後の復興から高度成長へ進んだ頃の社会は、明治以来の伝統的手法である「資格」よりも「場」の機能を優先する「タテ社会」を引き継いで成功しました。バブル崩壊以降は低成長期を迎えたので、持続可能な成長を維持していかなければなければならない時代になりました。多くの組織で“みんなで一緒に”働き続けることが難しくなったのです。かつての成功体験が忘れられず、“力”による「タテ社会」の運営を続けてきたことが、今の“後れ”を招いた原因の一つと言えます。

時代が平成から令和に移っても続く停滞した社会にあって、先進国から“3周後れ”を実感するようになり、昔成功した“みんなで一緒に”と“力”による組織運営の手法を見直すときが来ました。「モノつくり」の技術に頼るばかりではなく、先進国で確立されている組織運営の技術を学習し直して活用するときがきているのです。今までの「タテ社会」では「資格」よりも「場」を優先することが多かったのですが、これからは時と場合により「資格」を「場」に優先する「タテ社会」の運営に変えてはいかなければ“後れ”は取り戻せません。

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