I – 5 新型コロナウィルス感染症と共に(Life with COVID-19)

組織運営技術の確立(Establishment of Management Technique)
新型コロナウィルス感染症の蔓延で明らかになった3周遅れの日本を立て直すのには組織運営の手法を確立することが欠かせない。組織運営の透明化を図って失いかけている信頼を取り戻すことが喫緊の課題だ。
伝統的に行われてきた日本型といわれる組織運営は、参加者全員が同じような背景をもっていて同じような常識が通じた時代のものだ。現在の参加者は一人ひとりがみんな違うという理解が必要だ。違う人が集まって仕事をするためには、全員が業務執行の基本的な規則を共有していなければ成り立たない。
組織運営の見直しには第三者によって業務の執行過程を検証(Audit)できるようにすることが最低条件だ。業務執行過程を検証可能にするためには、業務の進行に合わせて進捗過程を確認し、業務を構成する作業の一つひとつがどのように進められたかを記録しておく必要がある。
業務執行の記録を残すためには業務の手順を明確化することと、各業務の基準を定めておくことだ。記録を残すことにより後日、第三者がどのように業務の結果が出されたのかを検証することができる。
業務の取り組み過程の記録を検証することで、組織の業務執行過程が信用できるか否かの判断ができる。検証は業務の結論や決定が正しいか間違いかではなく、どのように業務が進められ決定されたかの過程を追跡できる記録が必要になる。
業務の運営手法を改善し透明性を確保することは業務の執行過程の検証をするための必要条件だ。業務の各事象決定に至る執行過程を検証することによって、業務がルール通りに執行されたか否かがわかる。第三者が業務のルール通りの執行と目的達成の過程を検証できたとき、組織運営の内容が信用できると組織は信頼される。
業務の執行や判断の透明性を確保するということは、その一つひとつについての内容が明確で、議論や判断の過程が追跡できる。結論を総合的判断の結果と説明することは十分ではなく、判断に至る過程を追跡できることが重要となる。一つひとつの項目判定から全体結論が導き出されたことを示せば業務執行内容は確認できる。
個々の判定から全体結論を出す時に総合的な判断がなされるが、総合判断の過程が第三者によって検証できる場合に限り、総合的な判断は受け入れられる。科学的な情報を理解して総合的判断をするためには、想定外の事象の発生も想定内として、仮定の設定は科学的な根拠に基づいておく必要がある。
業務に同じ業務は一つとしてないが、一つひとつの業務には始まりがあり、終わりがある。一つひとつに始まりがあり、終わりがある仕事をプロジェクト(Project)と呼ぶ。業務を始めるということはプロジェクトに取り組むことだ。課題に取り組み解決し答えを出した時にプロジェクトは完了する。
仕事に取り組むということは業務を遂行して課題を解決すること。つまり、仕事をするということは業務の課題を解決するというプロジェクトを運営すること(Project Management)といえる。
どのようなプロジェクトも業務を構成する一つひとつの作業に分解すると、その一つずつがプロジェクトで、その一つひとつの作業がプロジェクトマネジメントの対象となる。作業単位のマネジメントができれば、同様の手法でより大きな業務のマネジメントができるようになる。大きな業務は全体をプロジェクトとして、業務の遂行をプロジェクトマネジメントの手法で運営すればよい。
プロジェクトマネジメントの手法を組織運営の規準にしておくと、どのような業務でもいつでもどこでも誰もが同じような質とレベルでプロジェクトの運営ができる。確立されたプロジェクトマネジメントの手法は、課題解決を効果的に進める方法で、個々の課題の種類や大小には関係なく適用できる。
たとえば、新型コロナウィルス感染症の蔓延の収束を課題とすると、対策業務がプロジェクトだ。新型コロナウィルス感染症の流行を防ぐ対策を進める組織の運営が、プロジェクトマネジメントといえる。コロナウィルスと共生する社会生活はどのようなものかの答えはまだないので、どのような取り組みで課題解決へ導くか、プロジェクトマネジメントの手腕が問われている。
社会活動は法で縛られているが、適法か違法かが活動の境目ではない。組織の規則や社会常識、慣習や文化の一部として倫理に基づいた道徳観などを活動の境界として持ち、意識して守ることが求められている。当然のことながら、社会活動の幅は各人が属する組織の立場によって異なってくるし、組織の責任ある立場の人と組織の構成員では求められるものは違う。しかし、社会常識を理解する教養が境界であることにはかわりない。
説明責任を求められる立場にある人たちには、説明責任が果たせる状況にあることが必要となる。説明責任を果たすことで行動の品質を保証し信用してもうことが大切であるにもかかわらず、最近は法に触れなければ何をやっても構わないという風潮がある。うそもばれなければ構わないし、ばれても法律は犯していないからと弁解する。法は最低限のルールとして行動の基準ではあるが、法の解釈で逃げる見本を責任者が見せることは詐欺行為の温床となっている。組織の責任者に求められる境界は法ではないことは明らかである。
組織の構成員に個人差があるのは社会の常で、組織の運営が人により変わることが多いのも現実だ。たとえば組織が個人の資質に影響され、それぞれの長を中心とするグループができてお互いに結びついたり、反発しあったりすることがある。その場合組織の合理性や効率性に反した行動がとられるようになり、成功がおぼつかなくなることがある。したがって、属人性に関係なく組織が機能するシステム、つまり組織運営の技術を確立することが重要といえる。

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