組織運営の技術
組織運営の技術-交渉
日本を先進国グループに仲間入りさせた立役者は製造業です。高度成長期のモノつくりの技術は、日本の製品は舶来品の物まねも多く似ているが安かろう、悪かろうが定着していた製品イメージをすっかり変えました。日本製品は世界の隅々まで輸出されて、高いが品質は超一流という評価に代わりました。以来、先進国の最先端を走り続けてきました。広く深い豊かな基礎研究があったことも高度成長を支えてきたと言えます。
しかし、モノつくりの最先端は長くは続きませんでした。後続国が品質は同等、あるいはそれ以上の製品を安い価格で次々と出してきたからです。それぞれの国がモノつくりの技術を発展させ、みんな並行して最先端を走り始めたのです。 より良い製品、新しい製品を作るモノつくりの技術(Hard Technique)を取り入れたのです。
モノつくりの技術(Hard Technique)はモノを相手に対話することで改良し発展させることができ、人との対話は最重要課題ではないようにみえます。また、後続国は製品を世に届けるための運営に長けていたこともありました。国や組織を越えて交渉する技に優れていたとも言えます。一方、モノつくりの技術を間接的に支えてきた基礎研究の分野が薄くなってきたことも3周遅れを招いた原因の一つとして考えられます。
結果として、先進国とは思えないような事象が明らかになってきました。たとえば一人当たりのGDPをはじめとして女性の社会進出状況、環境問題、特に発電分野における自然エネルギーの利用状況など。先進諸国並みとは言えない分野が数多く報道されるようになりました。いろいろな分野で次々と世界初とか世界一とかが発表された高度成長期が懐かしくなる時代になったのです。
わたしたちは現在の立ち位置を知って、もはや先進国とは言えない状況にあることを謙虚に認識する必要があるのではないでしょうか。世界の流れをどれほど意識しているのでしょうか。世界の流れは認識していても、既得権益を守るため従来の路線を歩み続けるとしたら、周回遅れでは済まなくなります。現在の立ち位置を正しく認識して、対策を検討することは喫緊の課題といえます。
世界の流れを正しく理解するためには国や組織を越えた人と人との対話が欠かせません。違う国や組織はそれぞれ違った立場にありますから会話は簡単ではありません。違う立場の人や組織との会話で必要な要素は対等の立場に立つ意識です。大国の動きを見て単純に従うとか、大国の傘の下で弱小に強く出るとかでは対話は成り立ちません。大国の眼鏡を通した情報だけでは世の流れはつかみきれません。必要な情報を得ようとするならば自らの交渉が不可欠です。
現在の3周遅れを招いた原因の一つに、対等の交渉をしてこなかったことが明らかになってきています。国内では組織の上下関係による運営は通じてきたかもしれませんが、国際社会では上下関係を意識した交渉をする限り外交辞令的な付合いの域を出ることはできません。国際社会では対等の対場を理解したうえでの交渉が求められます。これまでの上下関係による力に頼る交渉から、今対等に交渉する組織運営と交渉できる人を育てることが必要となっています。手遅れになる前に始めなければ現在の3周遅れから、さらに転げ落ちて先進国から脱落してしまいます。先進諸国とも後続国とも外交辞令を越えて対等に交渉する、できる組織運営の技術(Soft Technique)を身につける必要があります。