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組織運営の技術

組織運営の技術-記録
 
 公的な記録が改ざんされたり記録そのものがなかったりして第三者が組織運営の実態を把握できない状況が毎日のように起きていることは非常に残念です。
先日、知床で観光船が沈没するという痛ましい事故がありました。観光船は強風波浪注意報が出ている中をなぜ出港できたのでしょうか。国土交通省は観光船の通信手段として携帯電話をどのような検証手続きを経て承認したのでしょうか。なぜ観光船は交信を規則通りに行わず交信記録もファイルしていないのでしょうか。
また、国際的なスポーツ大会においても選手が規定違反で失格になることがありました。選手にも過失があったかもしれませんが、選手を試合に送り出す前に選手のスタッフは選手が規則通りの状態であることを確認する義務があると思われます。試合前に選手の状態が規定通りであることを確認して記録しておくことはスタッフの当然の業務です。出場時に選手の状態を確認し記録しておけば、選手が規定違反で出場することはありませんし、どのような状態で出場させたのかが検証できます。
日本が先進国と言えるのは、日本に先進国の条件の一つとしての記録を残す文化があることです。日本は昔から記録大国だったのです。平安時代の知識人は日記をつけることが知的な営みとして常識でしたから、様々な出来事のいつ、だれのことかがわかるまでに書き残していました。終戦時には大量の書類が焼却されましたが、それでも残った公的な記録や日記によって多くのことが検証されています。
日本は墨字の文化でタイプライターがありませんでしたから、物事は口頭で進められて結果のみを文章化して筆で書くという文化が発達しました。しかし、話し合いは上意下達で対等の話し合いをして記録するという習慣はありませんでした。
一方、いろいろな民族が暮らしている大陸では、明日はいなくなるかもしれない人達とは対等の話し合いを持ちますので、口約束で交わしたことを文書にしておくことはお互いが共存するための非常に重要な生活の知恵(文化)でした。
現代ではタイプライターの発達と共に出来事を記録して残すことが簡単になりましたので、記録をファイルして管理することが当たり前となっています。私的な話し合いはともかく公的な話し合いは必ず議事録を作成しました。口頭の話し合いの内容を文書化して確認することが行われてきたのです。
また、どこの国のどのような業務も文書のやり取りで進みますから、業務に多国籍のスタッフがかかわるかかかわらないかに関わらず、交換文書はすべてファイリングされています。数年かかる大きなプロジェクトでは取り交わす文書ファイルがコンテナ3~4台分の量にもなります。もちろん今では電子ファイルを活用しますので場所を取ることはありませんが。
このように組織運営の技術の基本は記録です。今では、世界中のどの組織においてもスタッフの重要な業務として作業記録を残すことが規則に明示されています。スタッフが日報に記録する事項を自分の判断によって取捨選択するとか、会議したのに議事録を作成していなかったということは許されないのです。にもかかわらず日本では不祥事が繰り返されています。なぜならば、次作業へ進む前に担当作業の完了確認をしてからでないと次作業には進めないというルールや会議の議事録を作成するという規則があるにもかかわらず、担当者が完了確認記録を残さないか議事録を作成しなくても、規則を守らないことを組織が許してしまうからです。
多くの日本の組織は品質を保証するISO9000番シリーズの認証を持っていますが、有形(モノ)・無形(ワザ)の製品の品質を含めて組織運営の品質が保証されているかどうかあやしくなっているのではないでしょうか。というのは品質保証の認証を持っている組織が監査のためにつじつま合わせの記録を作成したり、記録内容を改ざんしたり、捏造したりすることを許しているからです。そこには規則に違反しても見てみぬふりをしたり、暗黙の了解としたりする組織文化がないとは言えません。組織の責任者が自ら規則違反をする場合すらあるのかもしれません。
3周遅れが明らかになっている今の日本が速やかにこうした規則違反を許す文化を改めない限り、さらに先進国の座から滑り落ちていくことは明らかです。日本が先進国であり続けるためには、規則に従ってすべての作業を記録してファイルして管理する手法を改めて確立しなおす必要があります。ついては、先進諸国の公文書館が時の権力者の意向に関わりなく、できる限り多くの文書を残して管理している状況から教わることはまだまだたくさんあります。
 

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