I – 5 新型コロナウィルス感染症と共に(Life with COVID-19)

新しい生活へ(For New Lifestyle)
人類は数ある感染症のうちで唯一天然痘を絶滅した。天然痘は人類だけの感染症であったから絶滅できたともいわれている。しかし、蝙蝠由来といわれている新型コロナウィルス感染症は人類から動物へも感染するようだ。ということは、新型コロナウィルス感染症の絶滅は非常に困難なことが予想できる。
世界的な感染流行を数年内に終息させることは、ワクチン接種の進行にもよるが、ほぼ不可能と考えられる。新型コロナウィルス感染症を収束させて、感染を抑えながら社会活動をしていかざるを得ないことを余儀なくさせられた状況といえる。
毎日の普通の生活の中で感染リスクを抑えるために密閉、密集、密接の3蜜を避ける生活パターンの継続が必要といえる。日本は新型コロナ感染症に対処して経済を回しながら、3周遅れを取り戻すという新しい生活様式を確立しなければならない。
新型コロナウィルス感染症が収束しない中で、新しい生活の形を導入するのは簡単ではない。しかし、新型コロナウィルス感染症はウィルスと共存する新しい社会運営システムを模索するいい機会であるし働き方改革の機会でもある。
そのためには生活を支える経済活動のすすめかたを新しく構築しなければならない。新型コロナと共生していく社会を生活の一コマ一コマを課題解決の機会ととらえて、社会活動の在り方を見直すことが必要だ。
新型コロナウィルス感染症のウィルスは人によって運ばれるから、人の移動と接触を抑制しなければ感染は広がる。人の移動や接触を抑制しながら社会を運営し続ける方法の確立が急がれる。
通勤電車での密閉や密集、密接を避けることや密閉された事務所で多くの人が密集しての業務を避けること、スタッフが集まる会議の密集や密接を避けることなどが必要といわれている。
3蜜を避けITを活用して事務所以外でできる業務は在宅で行い、離れた場所から業務が遂行できる職種は新しい仕事の形としてリモートワークが推奨されている。会議は参加者がそれぞれの場所からコンピュータ上で参加する形が定着してきた。
業務はリモートワークが普通となり、都市中心部にある事務所への通勤が必ずしも必要ではなくなった。大都市の会社に勤務していても、ITを活用して地方に居を構えて働くことが可能になっている。実際、社会活動の中心を担う一部の方たちが地方に住居を移している状況がある。
新しい業務形態におけるIT技術の利用とデジタル化は手段に過ぎない。新しい生活様式を確立するために業務を進める一つひとつの作業内容を根本的に見直すことが必要だ。
デジタル庁の発足を前にIT技術の普及とその利用による新しい生活の試行錯誤が続いている。小学生への一人1台の端末配布や、役所業務のはんこ廃止、マイナンバーカードの包括的活用、会議用ソフト利用による自宅勤務、端末利用の非接触型営業などなど。個別の業務の進め方はずいぶんと変わってきたと感じるようになってきた。
しかし、いわゆる新しい技術を導入するだけで、業務の基本的なあり方や組織の運営方法を見直さなくては新型コロナウィルス感染症の下での新しい生活は十分な改革とはいえない。デジタル化は目的ではないし、業務の見直しが構成員の作業量を増やすことになるのは避けなければならない。
新しい生活様式の導入は仕事の仕方と進め方の見直しが必要となる。一つひとつの業務を構成する作業の見直しは新しいものを導入することではない。作業を基準化して組織で共有して、組織の規則を守ることが求められている。業務の進め方の基本を基準化して責任と手続きを明確にして、どのような手続きを経て誰が、いつ、どのように決定を下したかの過程を作業ごとに記録するのである。
業務遂行の手順(Procedures)を明確にすることにより、物事の決定過程が明らかとなり、いつどこでだれが間違えたかが追跡できるようになる。人は間違えるものだから間違った時にどうするかを決めておくことと、間違えないためにはどうするかをあらかじめ検討しておいて、決めた規則を守ることが不可欠だ。
新しい働き方が選択肢として加わる中で、新たらしく組織に参加した人は参加した時から組織のチームの一員になる。新しく組織に参加した人は先輩に従い、また教育プログラムに沿って、帰属組織の業務の仕方を学んできた。
最近では新しく参加した時からリモートでの業務の進め方を教わり、業務を割り振ってもらい一人で与えられた業務をこなすという状況が当たり前となってきている。新人はチームの一員として早く業務遂行の役に立ちたいと思っているので、リモートトレーニングだけでは十分とは言えないが、新しい業務の在り方となっている。
しかし、新人の実態はチームの業務の進め方の取得に一所懸命で、なかなか思うように力が発揮できないでいる。基本的な業務の進め方が共有されているとしたらいつ、どこで、何に参加しても、誰でもすぐに同じように業務に取り組むことが期待できる。
どのような業種にあっても、誰もがすぐ同じように業務が進められ同じような結果が得られる環境を整えるためには、業務を構成する単位作業の一つひとつを見直すことが必要だ。誰が担当者になっても同じ結果が得られるような業務が執行できれば、作業効率が上がり生産性が向上する。
日本は生産にかかわる技術が高いにもかかわらず生産性が低いことが指摘されているので、新しい働き方は日本の生産性の改善に役立つことは違いない。社会の生産性が低いということは業務執行の両輪である生産と管理をみると、生産の技術に比べて運営の技術が伴っていないことがわかる。3周遅れを取り戻すためには運営の技術(Management Technique)の改革が必要なことが明らかといえる。
毎日の仕事は課題のある作業に取り組み課題を解決して完了する。始まりがあり終わりのある仕事をプロジェクト(Project)と呼び、組織運営はプロジェクトの一つひとつの作業を執行することといえる。
プロジェクト運営にはプロジェクトマネジメントとして基準化された手法がある。プロジェクトマネジメントのワザは何時、何処で、誰が、何を、何故、どのように、いくらで解決するかという業務の作業手順を明確にすることから成り立っている。
遅れを取り戻すためには運営の技術の基礎を築いている作業の見直しが不可欠だが、単位作業の見直しは何も新しい技術を必要とするものではない。それぞれの組織が持っている作業規則の運用慣習を見直して、業務執行のルーティンとして再生させることにある。
作業の基準となる基本を確立すれば、誰が作業を担当しても同じレベルでの業務執行が可能となり作業の質が確保されて生産性が上がる。基本規則を社会の常識としてすべての構成員が共有し順守すれば、組織運営の基となる作業の均一性が確保されて組織の信用を高めることとなる。
新型コロナウィルス感染症対策の存在を前提とした新しい生活様式を考えるとき、世間では「法さえ侵さなければ何をしても許される生活を変えてほしくない、今のままが一番いい」という風潮があることを理解する必要がある。やりたい人がやればいい、自分には自分の生き方があるから、という人が増えている。
新型コロナウィルス感染症が収束しない理由の一つであるかもしれないが、人の耳に心地よい聞きたい情報だけ聞き、いやなことや不都合な真実は聞こうともしない生き方を責めることはできない。
相手が気に入らないと匿名の下に攻撃して排除する。何が気に入らないのか不都合なのかの基準が示めされていないので、他人から責められないか、排除されないかと心配しながら生活をしている。新型コロナウィルス感染症のため自粛生活を続け自己規制を強いることが社会からやさしさを奪っている状況といえる。
新型コロナウィルス感染症の下での新しい生活は、誰もが何処でも同じように仕事に参加できる状況を作り出すことだ。

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