I – 5 新型コロナウィルス感染症と共に(Life with COVID-19)

組織運営技術の基礎(Base of Management Technique)
新型コロナウィルス感染症蔓延の下でその対策のための特別措置法の改正や、緊急事態宣言発出とその延長がなされた。新しい法律に基づいて国の宣言発出があり知事は個人や事業者にいろいろな要請を出した。
宣言では自粛や時短営業の責任の所在がどこにあるのか明確(法律上は明確になっていると思うが)ではないために、個人や事業者の戸惑いの広がりを経験している。
新型コロナウィルス感染症の発現以来1年半、場当たり的な対応はいつも遅すぎて十分ではないので感染の増加と減少とが繰り返している。
目前に迫ったオリンピックとパラリンピックの開催には多数が反対しているにもかかわらず、動き始めたら止まれない状況が続き開催が決まった。関係者とどのような交渉をしてきたのか詳細を伺い知ることはできないが、具体的な方策・基準を示さないで「安心・安全に開催する」とだけ言い続けてきたのは、交渉能力に欠けた対応で危機管理能力に疑問符がついているといわざるを得ない。
日本の業務執行と組織運営の信頼が疑われているのは、業務の執行基準が社会で共有されていない(日本国内では共有され通用していますが)ことと、組織に運営規則があっても守られていないことにある。政策決定の基本となる基準が公表されていても公開されない情報も多く、業務執行が何をいつどこでだれがなぜどのように決定したのかがわからない。
新型コロナウィルス感染症に対応し3周遅れを取り戻すためには、業務執行の基準化の重要な要素である計画と会議とその記録の在り方を検証するいい機会といえる。
組織には生産の技術と同じように運営の技術が必要なので、運営の技術の基本的な要素である組織の在り方と業務の取り組み方の見直しを進めることが必要だ。業務の執行内容を見直して組織運営の技術のワザを習得すれば、3周遅れを取り戻すことは可能である。
具体的には伝統的な組織運営の次の二点を検証(Audit)し改善(Improvement)を図る。
1 業務運営(Operation Management)と、
2 業務手順(Operation Procedures)。
1番目の業務運営の質を高めると組織運営内容が均一化されて外部から信用される状況(Quality Assurance of Operation Management)となり組織は信頼される。業務運営の質を高めるために、第三者が運営内容について検証を可能にすることが必要だ。
第三者の検証とは業務執行の記録を追うことにより、業務がどのように進められて、どのように結論(決定)されたかを理解することだ。文書記録から当該事項をいつ、どこで、だれが、何故、どのように決断したかがわかるように、必要な情報はすべて記録されて公開されなければならない。
もちろんすべての文書記録が公開できるわけではないので、組織運営の品質保証の一環として秘密文書の範囲を明確に規定し公表しておくことは必要である。組織の信用は、第三者の検証を通じて組織の業務決定(Decision)が業務遂行時の環境(Circumstances)と条件(Conditions)に基づいて合理的な判断であったことが記録によって裏付けられて納得できるということによってのみ証明される。
決定権者は業務運営に対して説明責任を負っているから特に、総合判断に基づいて決定(Political Decision)をした場合は、どのような項目を検討したかの記録と、最終的に総合判断に至った理由の記録が重要となる。
したがって、決定権を持つ組織の長が文書記録を用いて公の場で説明責任を果たすことは、組織運営が信用できることの証明として非常に重要だ。責任者が組織の文書記録を基に決定過程を説明することは、第三者の業務記録の精査が可能になり業務の運営実態が検証できる。
2番目の業務手順を基準に基づいて共有するということは、各組織が独自に培ってきた業務執行の手順(Procedures)の共通原則を策定することだ。そのためには組織の在り方に始まり、文書の作成や記録保存など文章の取り扱い方一般についての基本原則の確立が個々の組織を超えて日本社会共通の財産とすることが求められる。
基本的な業務執行の手順を日本社会の共通原則として基準化しておくということは、組織の各ポストの業務内容の明文化とその権威と責任範囲を明確化することでもある。
組織により手順に独自の発展があるとしても、業務執行の基本原則が同じということは日本の組織運営が外部から非常にわかりやすいものになる。業務執行手順の原則が組織を超えて共有されれば、組織への新規参加者が組織マニュアルを読むことですぐに戦力として参加できるようにもなる。
毎年4月の新卒者が組織への新規参入を占めていた時代は、各組織が新卒者を年月かけて育ててきた。年を経るにしたがい新規参入者は組織の業務の進め方を身につけ組織の文化に染まった。
最近の新卒者の早期離職率は約3割といわれている。離職する人は組織の業務を覚えると職を代わり、新しい職場に参加して一から学ぶ。業務の進め方は職場ごとに違うので、すぐ戦力になることはない。労働生産性が低いのも当たり前だ。
新型コロナウィルス感染症の蔓延のために職を失う方が多く出た一方、好調な業種の企業も少なくなかった。しかし、業種にかかわらず転職することは簡単ではない。理由の一つは業種が違うと基本的な業務の進め方が違うことにある。
職を失った方が次の職場へ移ることを容易にするために、誰でもすぐに業務に参加できる基盤を作り業務の在り方を共有しておくことが必要だ。業務運営の手法(Operation Procedures)の基本を共有化することは3周遅れを取り戻すうえで非常に重要なポイントとなる。
パートIIで説明するプロジェクト運営の技術とは、業務を構成する基本の作業内容一つひとつが標準的な様式として確立された手法による組織の運営法である。業務の基本単位を基準化することで誰でも、どこでも、いつでも同じ質とレベルで作業ができるメリットがある。業務遂行内容の基本が同じなので、誰でもすぐにどの組織でも参加できるようになる。
基準化された業務手順を組織の運営基本として適用すると、その組織は業務の質が均一化されるようになる。したがって、誰が組織を離れ新しい人がポストに就こうとも業務は停滞することなく進行できる。
組織内の指示と報告のラインが明確で、ポストの義務と権利の範囲が決まっているから、人が交代しても新任者は業務について誰の指示で動き誰に報告すればいいのかがわかる。何をどう決定すればいいのか権限と責任の範囲を理解できるので、組織としては交替前同様に動き続けることができる。
業務の手順を基準化するためには組織の標準化と組織を構成するポストの責任と権限の範囲を明確にしておく必要がある。もちろんポストの業務の範囲や記録保存の規則や組織の形は組織により違うが、基本を基準化しておくことは最低要件である。
組織は基準化された見本から独自に発展させた規則を持つことで、組織の業務品質を第三者に対して保証することができる。言い換えると、各組織のマニュアルに組織の形とポストの業務の範囲を示し、業務の記録を保存する規則を定めておけば、新人がマニュアルを読めばすぐに着任したポストの業務が開始できるようになる。
組織内のポストの業務範囲が示されており、業務の記録が保存されていれば、人の属性や能力、向き不向きに関係なく誰が担当しても、業務が同じ質の及第点レベルで執行されるようになる。効率的な労働生産性が維持できるといえる。
各作業の手順を明確に示すことは、作業の要求基準を満たしたと確認したときに誰の検証、確認、承認で次の作業へ進めるかを決めることだ。品質保証の考え方は作業の実績と要求基準の比較、確認と承認で次作業へ進むことを基本として、最終作業まで手順規則を繰り返すことにある。作業の記録をたどれば作業の承認過程が追跡できるので、業務を執行した組織が信用できるということになる。組織の運営が信頼に足るということは、業務の質が保証されているからと解釈できる。
以上の通り3周遅れを改善するためには、組織を動かしている業務の基本を基準化して進め方の規則を確立する必要がある。業務を形成する一つひとつの要素を見直し基本形を復習し、業務の手順を規則化して規則に基づいて業務を進めれば、業務の品質が均一化し、信頼できる状況を作り出すことができる。
業務の基本を基準化する作業はきわめてアナログ的な作業といえるかもしれない。基本業務を基準化しておくことで、各組織は必要に応じて独自に改良して発展さすことができるようになる。
業務遂行の基本規則を定めて基準化することは新しい業務形態に挑戦するものではないし、業務量を増やすものでもない。基本的な業務手順が社会で共有されると誰が担当者になろうとも、同じレベルで業務を進めることができるようになる。いつ担当者がいなくなっても、いつ担当者が休暇をとっても、いつ担当者が交代しても何の変化もなかったかの如く業務を進めることができるようになる。

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