はじめに(Prologue)
世界中を苦しめたスペイン風邪から100年、新型のコロナウィルスが蔓延して1年半が経った。その間、世界の国々は新型コロナウィルスの感染防止対策に取り組み爆発的感染(パンデミック)を封じ込める努力をしてきた。地球上の国と地域が同時に同じ問題に取り組むという普通では考えられないことが起きている。
各国の新型コロナウィルス感染症対策には違いがあり、国際見本市のような状況になっている。対策にあたる各国の指導者の姿は受験生が共通試験に臨んでいるようだ。テレビや新聞をはじめメディアは各国の対策と社会システムの違いを詳しく伝えているので、一般の市民が国の指導者による方針や政策がどのような結果をもたらすかを知るところとなった。
ウィルス感染症対策の最終目標は感染を抑えてウィルスの絶滅をめざすことだが、ウィルスの絶滅が容易でないことは歴史が証明している。人類史における数知れないウィルス感染症の中で、唯一天然痘だけ絶滅宣言が出ていることをみても明らかだ。したがって、新型コロナウィルス感染症対策の当面の課題はコロナウィルスの絶滅終息ではなく収束をめざすことにある。
2020年秋以降、中国、ロシア、アメリカ、イギリスが予防ワクチンを開発して各国で接種が進んでいる。ワクチンの接種が国民の40%を超えた国では新型コロナウィルス感染症は抑えられ始めているようだ。日本製ワクチンはまだ開発されておらず、日本はアメリカ製とイギリス製を承認して接種が全国で始まっている。
日本型の新型コロナウィルス感染症対策は各国の対策と比較して、必ずしも優れているわけではないことが明らかになってきている。全国民へのマスク配布と特別定額給付金の一律配布の実施に伴う混乱が日本の課題を顕著にみるせるところとなった。
諸外国のデジタル化された社会運営システムと日本のはんこ文化のアナログ的事務処理システムとの業務処理格差が認識されたといえる。日本社会が諸外国と比べてデジタル化で遅れていることが明白となり、遅れの顕著な業務のデジタル化には官民を挙げて対処している。しかし、業務のデジタル化は手段に過ぎない。仕事改革の本質は組織運営手法の見直しにある。まだ日本社会が先進諸国の運営技術から教わることがあるとすれば、新型コロナウィルス感染症の蔓延は社会を見直すいい機会だ。
また、新型コロナウィルス感染症の蔓延は多くの労働者の職を奪っていることも、人の動きを伴う働き方の見直しを余儀なくさせているといえる。
組織運営手法の見直しには先進諸国の基本形が参考になるというのは、今の遅れを招いた原因が基本形を共有していない日本型の組織の運営手法にあるからといえる。
長年の伝統と慣習を積み重ねて発展しきた日本の組織運営手法は独特の日本型システムと呼ばれ、高度成長期には日本型経営手法は一世を風靡した。日本型の組織運営は基準を共有しているわけではないが、高度成長期に成功した運営手法であった。
しかし、日本独自の社会運営システムは優れて信頼できるととらえられていたにもかかわらず、外国人との共同生活において信用を損なうようなこともたびたび起きている。新型コロナウィルス感染症の蔓延は日本がもはや先進国ではない姿を世界にさらけ出したばかりではなく、日本は信頼されているのだろうかという疑問も生じさせてきている。
遅れを取り戻すためには組織運営の基本を規準として確立し、組織運営の技術を社会で共有することが不可欠だ。組織の責任者は運営の技術を改めて習得し、組織の構成員は基準化された作業のワザを身につける必要がある。
組織運営共通の基本を確立するためにはすでに確立されている組織運営の技術が参考になる。業務に必要な一つひとつの作業の基本を見直して基準化すれば、組織運営に生かすことができる。基準化した業務運営手法を社会で共有し、構成員全員が組織運営の規則を守ることが大切だ。
平成の30年間は地震や津波、台風や集中豪雨などの自然災害が続き、遅れを生じた理由の一つといえないこともない。平成時代は世界の流れを見る暇もなく国内に集中しなくてはならなかったのだ。令和の時代を迎えて「さぁ、これから・・・」というときに襲ってきた新型コロナウィルス感染症に立ち向かうとともに、伝統的な働き方の見直しが進もうとしている。
この機会に組織の責任を明確にした透明性の高い組織運営手法を標準的な規則として確立することが求められている。働き方見直しの目標は作業の基準を共有し計画と会議に基づく業務執行であり新しい手法というわけではない。組織運営の基本的な規則を確立して責任者が規則を守る手法という技術である。
マスコミは「日本は世界の周回遅れ」という言葉で日本の現状を表現しているが、遅れの実態は周回遅れというよりも3周(30年)遅れといっても過言ではないので、ここに3周遅れを取り戻す日本再生計画-組織運営の技術を提言するものである。
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