
毎日ナウシカ
私は長年の宮崎駿ファンだ。
他人に「宮崎駿ファンです」というと「あーわたしもジブリ好きですよー」という流れになる。「うれしいですねー」などと返す。
本当は一人で何度もジブリ美術館に行ったり、写真美術館でやっていた宮崎駿展に足繁く通い原画参加作品を踏破したり、NHKスペシャル『世界わが心の旅 宮崎駿「サン=テグジュペリ 大空への夢」』の録画ビデオを永久保存して、DVDも即買いしたりする程度にファンなのだが、それ言っても引かれるだけで良い事はないので言わないでおく。
「風の谷のナウシカ」という作品は、出世作であり、超長編であり、漫画作品であり、有名ながらも特殊なポジションの作品だ
当然通常版コミックを全巻もっていたし、子供の頃から読んでいるし途中から最終回まではアニメージュでリアルタイムで読んだ。
しかし、あまり読み返した事はなかった。
そもそも私は宮崎作品をむちゃくちゃ見返したりはしない。
理由はよくわからないが、影響が強すぎるからか、フカヨミしすぎてしまうからか、見返すこと自体が「重い」く感じるからだ。
だからなにか縁やキッカケがあったときに見るようにしている。
今回のコロナ禍で、家に帰ったとき丁重に手指を消毒する自分の姿が「まるで風の谷の住人みたいだ」と思った。宮崎さんのなんという受信感度!「今読むしかない!」という決意が突如湧き上がった。
気づいたときにはアマゾンで愛蔵版をポチっていた。
今「風の谷のナウシカ」読み返す、絶好の機会なのでは?
— くすのき (@kusunoki7100) May 12, 2020
呼吸器に良くない自然の脅威、それに対する共生派と抵抗派、そしてその自然すらも人工物という皮肉…買うなら今しかない!愛蔵版ポチーー!!
— くすのき (@kusunoki7100) May 12, 2020
せっかく豪華版なので、章ごとで読んでリアルタイムに毎日感想をツイートしました
第1章 「風の谷」
冒頭で王蟲、腐海、鏑弾、蟲笛など初見殺しのワードがガンガン出てきてこれ描いてる人やばい。王と鳥のロボットみたいなのが苗床になってたり妄想設定に満ち満ちている。あとたぶん編集の人もやばい。#毎日ナウシカ
— くすのき (@kusunoki7100) May 13, 2020
はー飛行アクションがかっこいいー!
— くすのき (@kusunoki7100) May 13, 2020
実在しない飛行機の存在しない乗り方をカッコよく書けるとかどうかしてるーー!!
虫の絵がうまいなあ。
キャラもやっぱポーズがうまいんよな#毎日ナウシカ
自分が上手いのわかってんだよなー
風の谷の理想的共同体みたいな感じはホルス由来なんだろうけど「無力さ」がどちらかというと描かれてるし、ここら辺は心境の変化が…
— くすのき (@kusunoki7100) May 13, 2020
いわばポルコが「かつてひねり込みで空軍のエースだった」みたいな…#毎日ナウシカ
これは今まで自分でも気づいてなかった。小国が大国に押しつぶされる。無力感。でも蹂躙されるわけでもなく。難しい気持ちが感じられるw
ポルコ云々は押井さんが言ってたと思うのだが、空軍=東映ということで……分かりづらかったですね。
忌避されてる蟲使いを差別せず使ってるクシャナのリベラルな感じとか、民の指示されてるのとか、もののけ姫と同じっすね
— くすのき (@kusunoki7100) May 13, 2020
ナウシカは蟲使いの蟲を嫌悪してるのは建前で墓あばきに怒ってるのかな?#毎日ナウシカ
序盤はかなりもののけ姫っぽいというか逆なんですが。
うわー腐海から戻って消毒してるビジュアルとかめちゃくちゃリアルに感じる!!今になって説得力凄い!!#毎日ナウシカ
— くすのき (@kusunoki7100) May 13, 2020
ここらへんは、未来予知とかいうより知識量の裏打ちでしょうね。
ナウシカは随所に宮崎さんの絵描き的、ミリオタ的博識さを感じました。
なるほど王蟲の素材を工業に利用してるという描写むちゃ面白いけど、王蟲も人工物だったという伏線(どこまで考えてたかはともかく)なんだな#毎日ナウシカ
— くすのき (@kusunoki7100) May 13, 2020
これもおそらく結果的に伏線になってるのはすごいですね。セラミック文化という設定はこの後だいぶ忘れられちゃいますねw
序盤の設定ヲタ感は凄いのですがだんだん薄まってくるのは、やはり長期連載の興味の遷移みたいなものを感じました。
1章読み終わった。章ごとに読むか。うーんこの漫画、めちゃくちゃ面白いなあ#毎日ナウシカ
— くすのき (@kusunoki7100) May 13, 2020
第2章「酸の海」
ナウシカ2章
— くすのき (@kusunoki7100) May 14, 2020
いやーマジ戦争マニア感すごい。大量に戦史読んでる感。
宮崎さんの大量の人を描くの好きだよなあ。密集度が高い。密です。そしてもの凄い死ぬ。
ここまででだいたい映画追い付いたくらいですかね。#毎日ナウシカ
戦争描くぜという気迫とノリノリ感がすごい。これ描いてる人戦争に引くほど詳しい絶対!という感じがひしひしと。
ナウシカは凄い自己犠牲的に描かれてて、ある種の個性にすらなってる。
— くすのき (@kusunoki7100) May 14, 2020
皆賢く、誇り高く、英雄譚だなあ。
指輪物語的。
各部族の複雑な関係性が戦記ロマン感。
優れた架空戦記はたくさんあるけど、飛行機と虫と粘菌でビジュアル成立させれる才能は他にない…。なんという異能…。#毎日ナウシカ
ここあたりの過度な自己犠牲はちゃんとラストの葛藤と決断の伏線となっていて。ナウシカを聖母的なキャラのように揶揄する向きもありますが、ちゃんと読むとそんなことはないという。
ここらへんが一番設定大風呂敷感がマックスですが、ちゃんとたためる人はめったに居ない。劇場アニメという絶望的な風呂敷を毎度たためるだけある。
この題材なら虫がギチチー!とかやってこれ見よがしにグロく死にそうなもんだけど、本物はそんな事はやらずに無為に大量に望遠で上手いレイアウトでどんどん死ぬ。カッコイイ。
— くすのき (@kusunoki7100) May 14, 2020
吹き荒れる妄想と暴力の嵐に圧倒されるなあ。#毎日ナウシカ
いやゆるスプラッタ的どや感を忌避してる感じはありますよね。グロはやるけど。
第3章「土鬼戦役」
ナウシカ3章
— くすのき (@kusunoki7100) May 15, 2020
クシャナが壊滅していく元直属軍の上空を旋回するところは良いなあ。
核と放射能のイメージが色濃いのだと思うけど、それを細菌に置き換えたら、現実にウィルスに怯えて生きる時代が来ているのは皮肉だ。#毎日ナウシカ
ほとんど大軍騎兵戦ー!
— くすのき (@kusunoki7100) May 15, 2020
う、上手い!こんなに戦争かけてる人が他に居て?いや、いない!
絶対色んな意味でアニメにできない…
ナウシカの脱出戦むちゃくちゃ凄いな。どうかしてる。
漫画を改めて読むと、ナウシカとクシャナが表裏一体ダブル主人公的な色合いが強いですね。
クシャナは案外活躍しないんだけど、ナウシカとかなりわかりあえてるし、心に残るキャラですよね。宮崎さんも好きなのかなと。
あとクロトワいいキャラですよね。欲深くて賢い。カイ・シデンに通じる所があって、その後の両監督の作品であまり見ないタイプという点も似てるなと思って書き忘れてた。
(ちょうどこの後ガンダム全話感想コピペしてたので)
ここら編ほとんどアクション。重複しますが脱出戦が凄い筆力。やりたかったんだろうなあ。
もともと数で押すのはそれこそ「どうぶつ宝島」とかでもやってますが、得意技と言うにはあまりにも…。
数で押すからなーとか言うけど数で押すなんてこと普通できないから。
戦争を大軍勢同士としてちゃんと絵として「描いてる」漫画はなかなかないと思いますねえ。
第4章破局へ
ナウシカ4章破局へ
— くすのき (@kusunoki7100) May 16, 2020
空中の巨神兵の巨大感うますぎる!
いやーメビウスの影響とはいえこのタッチで成立してる上に結果万人に受けてるという事実!
羽虫の大軍団の描写凄すぎる…。
粘菌が襲ってくる描写もめっちゃ面白い。
人間の次は虫をいっぱい書きまくるという離れ業w
粘菌の巨大感とかなにか実物の資料もあたってるんでしょうが観たことないビジュアルで凄い。
空中なのにめっちゃ巨大感が出てて、どんだけレイアウト上手いんだって思いました。
クシャナ過去編、兄王が勝利したのにあっさり死ぬのいいですね。
— くすのき (@kusunoki7100) May 16, 2020
娘を想って毒をあおった為に娘を忘れてしまうというのも良いなあ。
ラスボス感あった皇弟も小物化。目、目ガァ!
いやー展開も激しいし視点も多いし、凄い。
ここらあたりから、自分の用意した筋立てを自分で裏切っていくスタイルに移行してる感じがしますね。
目がやられることに関しては後日のツイート
「目が、目がぁ~!」ってネタにされがちだけど、ラピュタのムスカもナウシカの皇弟ナムリスも目をやられてたのって、あれって誰よりもトレス台の光を浴び続け目を酷使し続けてきた中年の実感がこもってるんだろうなあ。
— くすのき (@kusunoki7100) May 24, 2020
クシャナ回想、完全にアスカじゃん!
— くすのき (@kusunoki7100) May 16, 2020
続編作りたい話あったし、巨神兵といい、美術館といい庵野さん宮崎作品、やはり影響色濃いんのだなと。
おそらく20年…ヘタしたら30年ぶりに読んでいるのにかなり覚えているなあ。
短編も、映画も、シリーズも、漫画の大長編も面白いとか…
ここらへん全体的にエヴァっぽいんですよね。当然逆なんですが。
結構直接的影響がある、ちゃんと師弟なんだなあと改めて感じました。
もっと師匠を褒めてもいいんですよ庵野さん!
第五章大海嘯
第5章大海嘯
— くすのき (@kusunoki7100) May 17, 2020
悲壮だ。全世界が難民化し、災厄とされていた大海嘯はナウシカよりさらに自己犠牲的王蟲の行動だったと。
皇兄初登場。美味しいキャラ。
人間地球の癌的視点と、それすらも自然だというような視点の対立になってきましたね。
こうしてみると黒田硫黄さんと絵柄似てるな。#毎日ナウシカ
感想短くなってきたw
全編戦争難民のつらさみたいなのが描かれる。
皇兄はちょっとクロトワの焼き直し感があるけど、だんだん宮崎さんがラスボスみたいなのが嫌になってきてる感じはしますね。
序盤から提示されてきた「ちゃぶ台返し」が明確化してくるんですが、既にこの時点で葛藤自体を疑問に感じてるように感じましたね。
昔お世話になった方に「くすのき君は黒田硫黄の影響が色濃いね」と言われたんですが、黒田硫黄も宮崎駿っぽいなと感じたので結果オッケーと思った。
第6章青き地
第6章青き地
— くすのき (@kusunoki7100) May 18, 2020
ナウシカ絶望からの帰還。仕組みが一通り語られて、ではナウシカは何を選ぶのか?
戦争が終わって紛争問題…というかパレスチナ問題っぽくなってきましたね。
巨神兵覚醒。
慣れ果て皇弟も巨神兵もゴラムっぽさありますね。
人間には過ぎた力を封じるための旅、という意味でも指輪物語的
正解のなさというか「人間は度し難い」という色合いがどんどん強くなっていく。「映像の二十世紀」的な。
もともと戦争をずっと扱ってきてる漫画なんで脱線してるわけではないと思います。
宮崎さんは指輪物語は名作かだが大勢によって消費され尽くしてしまった、というようなこと言ってましたね。
— くすのき (@kusunoki7100) May 18, 2020
六本木ヒルズの屋上で東京の壊滅を妄想する宮崎駿とそれを引き留め大衆のために映画を作ろうとする宮崎駿の葛藤の物語っぽくなってきた。#毎日ナウシカ
ナウシカ描いてる間に「巨匠」になってしまった闇さえも良質にアウトプットされてる感すごい。
確認しようかと思ってググると、disってる毒舌しか引っかからんけど、Googleより俺の方が宮崎さんに詳しいと思うのでおそらくあってるはず…ソースなんだったかな…
— くすのき (@kusunoki7100) May 18, 2020
おそらく「宮崎駿が選んだ50冊の直筆推薦文展」のホビットの冒険の欄に書いてあったんじゃないかな?
— くすのき (@kusunoki7100) May 18, 2020
「Googleより俺のほうが宮崎さんに詳しい」は我ながらだいぶ気持ち悪い名台詞と思った。
この「宮崎駿が選んだ50冊の直筆推薦文展」ちゃんと残してあると思うんですがちょっと引っ張り出すのがめんどくさくて…見つかったら確認します。良著ですよ。
第7章 墓所
ナウシカ7章墓所
— くすのき (@kusunoki7100) May 19, 2020
独自のビジュアルの異世界の中にさらに異質な世界を描くのなんなの…。
宮崎さんは年を経るごとに万物がスライムっぽくなっていきますね。
「世界が清浄に戻ろうとしている。人間こそが汚れなのでは?」という仕組みそのものが人間のエゴが作ったものであったという怒涛の終着点。
(おそらくキリスト教的)清浄への渇望と希望の卵を、人の造りし最終兵器巨神兵オーマが握り潰す!この怒り!!
— くすのき (@kusunoki7100) May 19, 2020
全ての世界救う系少女達が尻尾を巻いて逃げ出す血と業!
12年かけこのとんでもない話を完結させられる才能と胆力!
畏怖ですわ畏怖。
王蟲達が浄化する機構さえも人造物だったと再度のちゃぶ台返し。「人間こそが癌なのでは」という認識すらも傲慢だという、痛烈なラスト。
善悪論的なものの考えを、おそらく自身も含めて「エゴだ」と否定してみせたという事と受け取りました。
最終的には「怒り」に着地した感じですね。
指輪物語リスペクトというよりアンサーソングなのかなという感じ。
— くすのき (@kusunoki7100) May 19, 2020
指輪は結局は焼かれ、エルフは旅立ってしまうわけですからね。
生っちょろい!という事なのかなと。
95年の寄生獣完結と並び時代の転換点な最終回ですねえ。
ナウシカと共にこの在宅期間を一生思い出すだろうな
ちょいちょい触れてきた指輪物語にもきれいに繋がった感じで。
昨今のSNSでも話題になりがちな社会的正義の向こうに、西洋的清浄さへの希求があり、それは本当に正しいのか?人は混沌そのものなのでは?というような非常に今日的な問題提起を感じました。
寄生獣を上げてますがやはり、この時代で一度「地球を大事に」みたいな事の安直さ傲慢さがピシャリとされて不景気とともにゼロ年代に突入するようなエンタメ史に思いを馳せました。
いやーほんと読み返せて、今このタイミングで読み返してホント正解だった。実に有意義だったなあ。
それでは、みなさんの元へも良き風が吹きますように!