[一語一会 #37] ビラ配り
鮮烈であって,なおかつ刺激的な図となっていたのが,大学での新入生健康診断の日だった.心に情熱を,新入生にはビラを.
大きな大学だとありがちだと勝手に思っているのだが,健康診断の時間は意外と限られていて,一度に捌けるキャパシティに対して特に開始時間付近は人が殺到するため,待ち行列がものすごいことになるのだ(ちなみに待ち行列は結構一般的な問題で,待ち行列モデルというものもあるらしい).
それが餌食になる人が続出するといえばいいのか,出会いが諸所で花開くといえばいいのか,そういうものになっていたのが,通称「ビラロード」だった.
出来なくなった.
2020年度の新入生は新型コロナウイルスの世界的な流行によって,そういったオフライン・感染拡大の機会から完全に遮断される結果となった.
個人的にはよかったような気もする.なぜなら私自身はシャイな方だし,あまり話しかけられたくなかったし,それでももらわざるを得ないので(列に並んでいるから…),紙が無駄になりかねないという問題もあったからだ.2018年のことだ.
ただ,そこで得たビラの中からどんな大学生活にしようか幅広く考えるきっかけになったのも事実だし,裏が白いビラはその後裏紙として勉強をするときに活用させていただいて,紙・ノートのためのお金が浮いているのも事実なのだ.
2019年には自分がビラを配る側になった.知らない人にガッツで話しかけに行くのも無理な私なので,あまり気が進まなかったが,何とかやっていたし,結局乗り越えた(もちろん,と言ってはなんだけれど成果は出なかった).
そうやって,コミュ障を深めていったわけだが,やはり,その後も一般的に勧誘というコミュニケーションがどうしても好きになれない,というのは余談である(こんなことだから,営業をするならたぶん相当に練習を積む必要があるだろう).
そして2020年.私がビラを配る必要はなくなった.
新歓はほぼ完全オンラインとなり,SNSを使った広報を行いつつ,オンラインイベントを開く形で,新歓を進めていた.それが,当初としては案外うまくいった.2021年もだいたいそんな感じだったはずだ.
そして今年度は,新型コロナウイルスの情勢が下火だったことも相まって,大学側の方針としても少しずつオフライン機会に対する規制が緩和されるようになった.たまたま周辺を彷徨っているときに,サークルだろうなという集まりの人たちが,ご飯を食べに行くのだろうか,歩いたり自転車に乗っていたりするのをよく見かけていた.
でもそこには,足りないものがあった.
ビラ配りだ.
世界は良い方向に進んだはずだった.配る人の手間も必要なく,紙資源も節約されるようになったのに,全体としてみればおそらくそれほど集客・コンバージョンが変わったわけではないのだ.(印刷業者からしたら少しばかり売り上げが減ったかもしれないが.)
ノスタルジー遍く,京都市街の端っこで,自分のふがいなさと,集合的に変わりゆく私たちの姿を思い,私は一人自転車のブレーキをかけた.
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