これからの「医療」のこと
「医療崩壊」は間違いなく進んでいる。今週はJRAのスマホ問題が大きく取り上げられ引退する騎手もいた。「組織」というものの重要性に気が付いている人も多いだろう。恐ろしいのは「良い組織」に見えるものほど「自分を守ってはくれない」ということだ。それは「医療」も同じ状況。それは訴訟がどうとかそういう話ではなくて、自分の身を自分で守る方法を知らない医学部生が増えてきているのも事実である。これからの「医療」について自分の考えをまとめるとともに今後「医療」の道を進む人々にいったん立ち止まって考えてほしく書き連ねる。
①「直美」ってなに?
「直美だからね」「直美だと年収4000万円でしょ?」というものを目にしたり、耳にしたりすることが増えてきた。「直美」とは初期研修終了後もしくは初期研修をせずに「直」で「美」容に進む医師のことを指す。我々は保険診療を行うためには「初期研修2年間」を行い保険医の資格を得なければならない。保険医の資格がないと保険診療が行えない。自由診療のみしかできない医師となる。保険医が必要ではないのが「美容」の世界ですべて自由診療のためその資格は不要、すなわち初期研修をしなくても高年収となってしまう。脱毛もリフトアップも脂肪燃焼も豊胸もすべて自由診療。乳癌で乳房切除後に乳房再建を行うときは保険診療。ここの違いをまずは理解していないと今後医療の世界で働いて行くのは困難だと思う。
「美容」の世界は年収が極めて高くその世界に最初から入るものも増えてきたが圧倒的な競争力に耐えられるメンタルがないとやっていけないというのは事実である。高額をつぎ込んで綺麗になりたいと思っている「お客様」にその金額に見合ったサービスを提供する必要がある。その分クレームも多いし、トラブルでの対応を求められることも普通の診療と比較すると多い。それが果たして悪いことなのか?というのは意見が分かれるところで、個人的には「治療の方向性の一致」があるので好きである。美しくなるためにお金を使う⇔美しくするために考えて治療を行う。この矢印が成り立つ以上は下火にはなるだろうがなくならない。
「直美」を選んだとしたらもう普通の医療はできなくなる。まずは給料と業務内容が見合わなさすぎて仕事に対するモチベーションがなくなる。国公立の大学病院勤務で月給手取りで25-35万円(当直週1回込)だ。それに対して美容が手取りで150万円ほど。キツイ上に、意味のない業務に時間を取られ、拘束時間も長いのにこの金額しかもらえないことに不満を持ってすぐ辞めることになる。次の理由として「周りからの目」だ。今でこそ私は気にしなくなったが30歳手前で美容崩れとなって普通の医療に戻るほど滑稽なものはないし、誰からの支援も受けられない可能性は大いにある。本人のやる気の問題もあるが結局「出戻り」の形になるのでおススメ出来ない。ただ今後「保険診療」は間違いなく崩壊する。いかに「自由診療」と組み合わせるかだと思う。そういう意味では自由診療で少しアルバイトをするというのも良い経験になるだろうし、今後生き抜くために必要なことだと思う。
②「地域枠」について
医学部医学科の地域枠選抜はそもそも地域医療における医師不足の解消を目的につくられた制度で授業料が免除となるほか生活費の支給が得られる。競争率が低く医師になりやすいといったメリットもある。一方で、地域枠で医学部に入学した学生は卒業後、各都道府県や大学が指定する医療機関や特定診療所での勤務が義務付けられるため、一定期間(9年程度)はその地域から離れられないことに注意が必要。
どこかのサイトの文言を一部改変したのをそのまま載せた。これ以上でもこれ以下でもないからだ。ちなに以下に地域枠を採用している大学とその人数を大まかに記載する。
【国立大学】2023年度のもの
旭川医科大学 42人/ 弘前大学 40人
秋田大学 28人 / 筑波大学 18人
群馬大学 12人 / 千葉大学 5人
東京医科歯科大学 15人以内 /新潟大学 33人
富山大学 35人以内 / 金沢大学 12人
書くのが疲れてきたので
【2023年度版】国公立・私立大学医学部医学科入試の地域枠情報まとめ | 医学部偏差値比較ランキング※医学部の正しい選び方 (xn--ekry3qey0c.jp)
あとはこちらを参照。
上に書いたようにかなりの大学で「地域枠」を設定しているのに地方での「医師不足」が増えているのはなぜか。それは入学した後に「地域枠」の現実を突きつけられ嫌気が差しお金を返金してでもその「地域枠」から脱出する人が増えているからである。ここで既にシステムが崩壊している。そもそも①一般受験でも合格したかもしれないが推薦だったら受かった人、②一般試験で受かる実力がなくて推薦で受かった人、③何も考えず医学部にただ入りたかっただけの人、に分類できたのだがここ数年④とりあえず地域枠で入学してお金を返して自由になりたい人というのが出てきた。
そうなるもの当たり前で、入学の門戸を増やすとその大学のレベルが著しく下がる。地域枠を多く設定すればするほどレベルは下がり留年率も上がる。これまでは留年しなかったポイントで留年していき、勘違いして医師になった中の2割くらいは美容を選び、残りの半分以上は大学に残らず市中病院で専門医取得を行い、市中病院では働くことのできない人が大学に残る。私の印象としてはそんな感じ。全体的なモラルも低下しており騎手のスマホ問題と似ているが「医師の当直問題」とでも名付けようか。当直中は特別な理由がない限り「院内」にいなければならない。特に地方、田舎に行くとその病院その地区に自分ひとりだけのことがある。院内急変に対応できなければ訴訟にまで容易に発展するし大抵の場合は負ける。田舎の現状を知らない人にも教えると、看護学校上がりの2-3年目看護師が病棟に3人いて精一杯で教えてもらえる環境にもなくなんとなく働けてしまっている人が多い中で急変にそもそも気が付かないとかある。その状況で「当直中に飲みに行って飲み屋で電話出て救急車の対応に戻ってきた」のは事件すぎて言葉にならない。その発想がそもそも僕ら世代にはない。
話を地域枠に戻そう。こういう崩壊したシステムの中にいる人(地域枠の学生)はよく聞いてほしいが「返金するなら学生のうちもしくは初期研修医のうち」である。いろいろな理由付けが出来るからだ。そしてそこを深く尋ねられることはない。履歴書に「推薦枠で入学」と記載する必要はありそうだけど笑 同期でもその枠の半分以上が返金をした。返金されたら自治体は拒否できない。「職業選択の自由」を奪い人権侵害になりかねないからだ。一般的に言われているのが一定の上乗せした金額を授業料、生活費と含めて一括で現金で返還するのがルールである。そういったところに目を付けている銀行もあり「地域枠就学資金返済ローン」みたいなのを宣伝している銀行もある。知りたかったらDMでもください。普通に教えます。
そういって返済した方はもちろん都市部に流れる。当たり前だ。入学するときに少し楽をして医学部に入って地域枠をまっさらにして都市部にいったら自分も立派な医師の仲間入りだくらいに思っているのかもしれない。それはそれでお好きにどうぞ。私の給料が少し上がるだけなので笑 面接でされた質問とそれに対する私の答えが現実味を帯びており、18歳の自分がある意味間違っていなかったことが分かってよかった。
面接官(教授):「地域枠に医師が残らないのはなぜだと思いますか?」
南原:「給料だと思います」
面接官:「では年収2000万円にするのでどこでも行ってください」
南原:「分かりました」
③「専門医」について
「専門医は早く取った方がいい」とか「専門医は取るべき」とかいう意見が多いが、ぶっちゃけた話をすると本当に不要で、専門医を盾に大学病院がある程度の人材を確保しておきたい、コマとして使える人間を確保しておきたいということに気がついたのが働いた後だったのが私としてはミスだったかな。専門医を取得するには「○○科専門研修プログラム」といったものに入る必要がある。ここで「○○大学○○科専門研修プログラム」というのに入ってしまうことが「入局」すなわち医局員として「医局」という組織で働くということになる。私は「医局」が大嫌いだがそれは名門大学の医局ではないのに背伸びをして「医局ぶっている組織」が嫌いだ。旧帝大の医局はしっかりしているしいまはInstagramの活用もあり雰囲気が分かりやすいので、それを見て確かめた方がいい。
専門医機構の汚いところは専門医として認定を受けるには「大学病院での研修を半年以上行うこと」を明文化し、さらに今後「専門研修中の医師は地域医療に1年ほど貢献すること」と追加される見通しであるところだ。医局に人を残して1人でも多く地域医療に回せるようにしている他ならない。論文作成や学会発表は必須であり大学のプログラムの方がしやすい、とか、他の地域枠の人もいるから大丈夫、とか甘い言葉に騙されない方がいい。地域枠の9年間のうち2年間は初期研修医、その後専門研修をしたとして4年間、専門医取った後に7-9年目の3年間を田舎で医療をしなけばならない。その3年間医局に自由を奪われることになる。これがかなり大事。弱小医局でも巨大医局でも専門医取らせてやったから地域(田舎)行ってこい、こうなるわけである。
あとは「専門医」というのは別に特殊能力ではない。「専門医」を取ったから特殊な手術が出来るわけでもないし、特別給料が上がるわけでもない。だけど就職するとき、医局から抜けるときには必要だと思う。専門医がないという理由で2か所くらい面接もさせてもらえなかった。私も今後は取得する予定だけど焦っては取らない。開業とか考えている人は早めに取りましょう。
④医療のこれから
今後は保険診療のほかにいかに自由診療を組み込んでくかがカギになってくる。80歳以上にちゃんと治療するのも大事だとは思うが、治療の方向性が一致しなかったり、家族がアホだったりと正直めんどくさい部分が多い。それに気が付いてしまった人から美容や訪問診療に移行している感はある。大事なのは「自分がなにをやりたいか」「家族を幸せにできるか」この2点だと思う。そして「医局」には極力関わらないように過ごす。これさえ意識していればなんとかなる。たまに田舎で医療をして稼ぎまくっているDrがTwitterで叩かれているが「稼げるうちに稼ぐ」というのも大事なので。3連休事故やケガのないようにお過ごしください。
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