<あんこ の うんこ/後編>
産卵が終わった天然たい焼きのオスとメス
ほとんど同時に天然たい焼きは産卵し、産卵が終わるのもほぼ同時。その後、天然たい焼きのオスとメスは、さらに川上に向かって一斉に泳ぎ出します。天然たい焼きの黄色い身体の色と泳ぐさざなみで、川面にゆらゆら輝きを放つ現象が発生。川一帯がキラキラと映ることから「黄金羽蘇川」と呼ばれています。
あんこやの「大漁仕入れ」行事
多くの産卵があった場所から数十メートル川上に、天然たい焼き一筋の老舗「あんこや」があります。あんこやでは「大漁仕入れ」と呼ばれる行事を、この時に行います。「大漁仕入れ」は創業時より行われている神聖な儀式。あんこや8代目店主である安子壱伴は、代々受け継がれてきた釣り竿と秘伝のエサを用意し、「大漁仕入れ」に臨みます。
伝統通り、新しい作業着とエプロンを付けます。唯一の違いは、昔は竹網籠だった入れ物は、耐久性の面から昭和30年よりブリキ製に。この変更により、入れ物が壊れ、通称「逃げ焼き」が無くなったということです。
昔から変わらぬ一本釣りスタイルで、大量の天然たい焼きを釣ります。もちろん相当の修練が必要で、代々あんこやに生まれた子どもは3歳になったらこの釣りの修練を始めるのだそうです。
天然たい焼きが一匹、また一匹と釣られて行きます。そのスピードは信じられないくらいの速さで、常人ではなかなか到達できるレベルにないことがわかります。
わずか1時間で数百匹の天然たい焼きが釣れています。この行事は夕方まで続き、1年分の天然たい焼きが収穫されるそうです。
天然たい焼きの「天然初出し」
収穫が終わったら、お店に戻り、天然たい焼きの「天然初出し」の準備が行われます。天然物を焼く器具は、一匹一匹を焼けるように挟み込みの鉄製。厚目の鉄を使い、火を中火と強火の中間にして、ムラなく全面が焼けるように工夫をしているのだそう。
鉄板には、香り付けとくっつきを避けるために薄くゴマ油を引き、一匹一匹のせて行きます。器具を合わせて密閉。片面10-12分焼いたらひっくり返し、もう片面を焼きます。
釣り上げたばかりの時は、水っぽかった天然たい焼きがパリッと焼き上がります。海で生活していた頃の塩分は、川に上った時に川の水で洗われて、ちょうど良い塩加減に。また、天然たい焼きの胃や腸などの内蔵や骨は、時間をかけて熱を加えることで、柔らかくなり餡として一体になるそうです。
オスは糖分を産卵で出しているため、少し甘味控えめ。メスは小豆を産卵で出しているので、少しこし餡気味になるようです。天然たい焼きを食べた時は、オスかメスか当ててみるのも面白いのではないでしょうか。
…おしまい
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