酒田 いづみ「優しさの贈り物」
1.マタニティマークを知っていますか?
街中で「マタニティマーク」を身につけた女性を目にするようになった。
「マタニティマーク」とは、妊娠や出産に関する安全性と快適さの確保を目指すため、厚生労働省が2006年から交付を始めたマークだ。
母子健康手帳を交付されるときに一緒に配布されることが多く、特に外見上の変化が乏しい妊娠初期の妊婦さんにとっては周囲にみずからの存在を認知してもらうための大切なアイテムのひとつになっている。
しかし悲しいことに、近年、マタニティマークをつけている妊婦さんに対して嫌がらせや暴言を浴びせるという事例もあり、そうした事態を回避するため、マタニティマークを意図的につけない妊婦さんもいるようだ。
新しい生命の誕生である「妊娠」を素直に祝福するという寛容な社会の実現を願わずにはいられない。
特に初めて子どもを授かった妊婦さんなどは、嬉しい反面、心細さや孤独感の中で不安に囲まれて暮らしていることが多い。
いつ終わるかも分からない悪阻(つわり)や出産時の痛み、そして出産後の暮らしのことなど、情報を知れば知るほど敏感になる人もいる。
2.妊婦さんにギフトを贈る文化
今回ご紹介する酒田いづみさんは、そうした妊婦さんを支援しようと立ち上がったひとりだ。
「妊婦さんにギフトを贈る文化をつくりたい」と会社を退職し、SIAWASENO KOUNOTORI GIFT(シアワセノ コウノトリ ギフト)という事業を始めた。
昨年8月からは初めてのクラウドファンディングに挑戦し、160人もの支援者の協力を得て、贈り物だけでなく、妊婦さんや子育てママのサポートができるプラットフォームの準備を進めている。
「SNSなんて、ほとんどやっていなかったんですけど、コロナ禍ということもあり、自分の想いを届けるために、様々なコミュニティを活用して、毎日のように様々な人たちとオンラインで対話を重ねていきました。この1年で人生が目まぐるしく変わりましたね」
ごく普通の主婦だった彼女をそこまで突き動かしたものとはいったい何だったのだろうか————。
3.大変だった子育て
酒田さんは、1979年に埼玉県八潮市で3人きょうだいの長女として生まれた。
小さい頃から洋服に興味を持ち、自分で手持ちの服をコーディネートすることが好きな子だったという。
高校生のときには、服飾関係の専門学校の存在を知り、卒業後は東京・中野にあるデザイン専門学校へ進学。
そこでスタイリストの勉強をしたあとは、アパレル販売員として伊勢丹新宿店やプランタン銀座などで働いた。
3年ほど経った21歳のとき、高校1年生の頃から7年間交際していた4つ年上の男性と結婚。
23歳で長男を、26歳で長女を出産した。
長女が1歳のときには、川崎病を発症。
治ってきた頃に、隣の市で製作を始めて間もないレザーバッグの製作会社があることを知り、応募した。
働き始めて間もなく、長女が極度のアレルギー体質ということが判明し、今度は重度のアトピー症状が現れ始めた。
「喘息があるしアトピーもひどくて、そのうえ食物アレルギーもありました。薬も効かない状態だったから、会社を半年以上休んで肌に良いという栃木の温泉に車で週2〜3回片道3時間かけて通う温泉治療を始めたんです。お陰で小学校の入学時には随分良くなったんですが、あの頃は本当に大変な毎日でした」
4.自分にしかできないこと
いっぽう職場でも、酒田さんはバッグの縫製から配送、営業、そしてデザインの企画などあらゆる仕事をこなしていった。
有名雑誌社とコラボレーションし、毎月新作のバッグなどを発表する企画を任された。
3年ほど経って、共同企画が終了してからは挑戦の機会が減ったことで、酒田さんは「自分にしかできないことにチャレンジしたい」という想いを抱くようになっていった。
思考を重ねていくうちに、みずからの出産や子育ての経験から「妊婦さんへの贈り物ができる文化をつくりたい」というアイデアが浮かび、「これは片手間ではできない」と10年勤めた会社を退職。
クラウドファンディングの挑戦を始めたというわけだ。
「出産祝いは赤ちゃんが主役ですが、妊娠や出産はママが輝く瞬間でもあると思うんです。女性にとって、その後の子育ては大仕事ですから、私自身が子育てをしていくなかでそうした想いは強くなり、『世の中の頑張っているママを応援できる形はないかな』と考えるようになりました。行動を起こして、世界が変わり、応援してくれる人がたくさんいるという状況に驚くとともに感謝しています。私ひとりの夢ではなく、ママの期待を背負っていると思っていますから、頑張らなくちゃと思っています。コロナ禍で妊婦さんや産後ママさんも大変な状況ですが、笑顔になってほしいんですよね」
酒田さんのウェブサイトには、ママのサポートになる家事代行や育児相談など体験型のギフトが特徴だ。
特筆すべきは、売り上げの一部が地球環境や子どもの支援といった寄付に繋がることを考えていることだ。
5.優しい未来を
「小さい頃からリサイクルや地球環境のことがすごく気になっていたんです。でも自分にできることといえば、ゴミ拾いや分別くらいで、いつももどかしく感じていました。身近では、長女が食物アレルギーだったことも影響しているのかも知れませんね。そんなとき、日本の支援で分離手術を受けた『ベトちゃん、ドクちゃん』の弟グエン・ドクさんの飲食店が売り上げを寄付していることをニュースで目にしたんです。『私がやりたかったことはこれなんだ』と直感しました。すぐに『寄付を仕事に取り入れよう』と決めましたね」
走り始めたばかりの酒田さんだが、その想いは誰よりも強い。
ひとつの文化を社会に根付かせていくことは、とても大変だが、酒田さんの後ろには多くの人たちが支えているようだ。
妊婦さんに手を差し伸べたいと思っていても、なかなか勇気が出ないという人は多いだろう。
そんなときに、「あなたを応援しているよ」と背中を押すことができるのが酒田さんのウェブサービスなのだろう。
誰かの優しさがまた次の優しさを生んでいく。
そんな優しさで溢れた世界の未来を、きっと酒田さんは見据えているはずだ。
SIAWASENO KOUNOTORI GIFT ツクツクSHOP
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